『届いて.....』
一定のリズムで刻む心電図。
静かな病室に響く...
清潔感のある病室はどこを見ても真っ白で
自分の吐く息ですら汚しそうになって息が詰まる。
今日で何日目だかもう忘れた。
君は今日も起きる気配は無い...
けどいつか目覚めてくれると信じている。
ふと見た窓の向こうは暑そうで
家の屋根も植物も走る車たちもみんな
太陽の光を眩しく反射している。
ずっと心地良い温度が一定になっている
この病室とは大違いだろう。
「なあ、あの暑い中食べるアイスが好きって言ってただろ。
さっさと起きてアイス食べに行こうよ。」
手をそっと握っても反応は無い。
いつもそうだ。
僕の思いは君に届かない。
「君のことくらいは届いてよ...」
心電図は一定の音を病室に響かせる...
それ以外は時が止まったように静かだ。
語り部シルヴァ
『あの日の景色』
休みの日。久しぶりに空を見上げた気がする。
夏と言えば出てきそうな空...
夏が来ると思い出すのはひまわり畑。
ギラギラした日光に立ち向かわんばかりに
ひまわりが顔を向ける。
光を受けた黄色の花びらが眩しく輝いている。
夏の湿気った風がひまわりたちを撫でて
カサカサと音を立てる。
空は青く入道雲が大きくそびえ立つ。
その一枚絵のような景色を酷く覚えている。
あの頃は何も考えずに生きてて楽しかったなあ...
今となっちゃあんな風に空を見上げることも無かった。
だから空がこんなにも青くて広がっていることを忘れていた。
ぼーっと眺めているとひまわりたちがカサカサと
音を立てているのが聞こえてきた気がした。
語り部シルヴァ
『願い事』
今日は七夕。じゅぎょうの終わりにたんざくに願いごとを書くことになった。
好きな願いごとを書いていいと先生に言われたけど
ほかのクラスメイトに見られたらなんて言われるかはわかっている。
だからつまんないって言われるような願いごとが一番いい。
けど願ってないことは嫌だなあ...
そう思いながらわたされたマジックでたんざくに願いごとを書く。
...いいことを思いついた。
「せんせー。まちがえちゃったからもういちまいください」
「マジックだから消えないもんね。いいよ。」
先生のきょかをもらってもう一枚取る。
本当はまちがってないけど。
さっともう一枚に願いごとを書いて机の中にかくした。
学校が終わって帰ろうとしたときにクラスメイトに声をかけられた。
「ねえ、さっきたんざく一枚持って帰ろうとしたよね?」
さいあくだ。よりによって一番見られたくない人に見られた。
「ないしょにしてあげるから願いごとおしえてよ。」
言えないからひみつにして持ってかえろうとしたのに...
この願いごとを見たら君はなんて言うかな...?
語り部シルヴァ
『空恋』
「私ね。空の天気は空の表情だって思うんだよね!」
不思議なことをよく言う彼女は
雨の時よくそんな話をしていた。
「晴れなら笑顔だからみんなよく笑うし
雨の時は泣いてるからみんなしんみりすると思ってるの!」
「泣いてる...?」
「うん!だからこうやってしんみりした気持ちになって
みんなで辛い気持ちを共有してるんだよ!」
なんだそれなんて思わなかった。
そんな事を考える彼女に尊敬していた。
だから彼女がその話をする時には一緒に
空の気持ちを考えていた。
今日は晴れ。空は満面の笑みだ。
彼女のように空に表情が付いていることが当たり前になった。
別れた彼女もあの空のように笑っているだろうか...
気がつけば僕は彼女と同じように空に思いを馳せていた。
語り部シルヴァ
『波音に耳を澄ませて』
波が引いて波が寄せてくる。
小豆を転がしたり貝殻を耳に当てたりすると聴こえる音よりも
より鮮明でより耳に残る。
目を閉じればその音の心地良さに暑さを忘れて眠れそうだ。
夕焼け空に波音。そして沈んでいく夕日。
ここはコンビニすら無い何も無いところだけど
自然の景色だけは他に引けを取らないと思っている。
しかし本当にここは何もない。
時間ができて親に顔を見せに来たが
それ以外にすることがない。
よく十数年間もここで生きてこれたなとしみじみ思う。
多分十数年もの間。
今の俺のように波の音を聴いては目を閉じていたんだろう。
過去のことなんてあんまり覚えていないものだから
確信は無いけど、昔の自分ならきっとそうするだろう。
景色を見ながら波の音を聴いているこのシチュエーションが
どれだけやっても飽きないと思えたから。
語り部シルヴァ