『波音に耳を澄ませて』
波が引いて波が寄せてくる。
小豆を転がしたり貝殻を耳に当てたりすると聴こえる音よりも
より鮮明でより耳に残る。
目を閉じればその音の心地良さに暑さを忘れて眠れそうだ。
夕焼け空に波音。そして沈んでいく夕日。
ここはコンビニすら無い何も無いところだけど
自然の景色だけは他に引けを取らないと思っている。
しかし本当にここは何もない。
時間ができて親に顔を見せに来たが
それ以外にすることがない。
よく十数年間もここで生きてこれたなとしみじみ思う。
多分十数年もの間。
今の俺のように波の音を聴いては目を閉じていたんだろう。
過去のことなんてあんまり覚えていないものだから
確信は無いけど、昔の自分ならきっとそうするだろう。
景色を見ながら波の音を聴いているこのシチュエーションが
どれだけやっても飽きないと思えたから。
語り部シルヴァ
『青い風』
少し前から衣替えが始まった。
みんな堅苦しそうなブレザーをとっぱらって
制服のシャツ一枚になった。
幸いにもこのクラスはエアコンによるクラス内の揉め事は
起きずきちんと話し合ってエアコンの温度を調節したり
自分でひざ掛けを用意したりでルールを守っていた。
それでも窓側の席はガラスが
受けた日差しの熱によって机が温められる。
今日も暑くなりそうだ…
今は朝のショートホームルームが始まる前で人が少ない。
登校中に風が吹いていたのを思い出し、
窓を開けて風を浴びることにした。
しかしここは三階なのに風が吹かない。
それどころか朝からイチャイチャしながら
登校するカップルばかり目に入る。
...朝から見せつけてくるなあ。
クラスメイトが一気に教室に入ってきた。
そのことを理由にして窓とカーテンを閉めた。
閉じきれなかったのかカーテンは風を受けて揺れていた。
語り部シルヴァ
『遠くへ行きたい』
「暑くなってきたねえ...」
「そうだな。」
「ここは冷房が効いてるけど暑いって感じるし、
暑い中アイスも食べれないから暇だよ〜」
「今度持ってきてやるよ。先生に相談しなきゃだな。」
「あ、私海行きたい海!」
「海もいいよな。今度行けたらいいな。」
「...行けるよね?」
「あぁ、きっと行けるさ。」
「あのね、私もっといろんな所へ行きたい。」
「うん。」
「海だけじゃなくて山とか見たい景色沢山ある。」
「行こう。絶対に。」
「約束...してくれる?」
俺は無言で指切りをした。
もってあと一週間。この時間で君と何ができるだろうか。
語り部シルヴァ
『クリスタル』
私は病気持ちだ。
涙が水晶に変わる病気。たまに他の宝石に変わることもある。
鑑定士に見てもらうと
一生遊んで暮らせるほどの価値があるそうだ。
両親は大喜びしていた。病気の私にいつも感謝してくれた。
けどそれは私じゃなくて水晶にだろう。
最初こそ私の病気に寄り添ってくれたけど
今じゃ私の水晶のことにしか興味を示さなくなってしまった。
私が病気を治せばお母さんはどんな顔をするかな。
お父さんはなんて言うかな...
涙は真っ赤なルビーに変わった。
語り部シルヴァ
『夏の匂い』
ジリジリと照り付ける太陽にアスファルトが焼ける。
靴に裏から伝わる熱がいかに暑いかを物語る。
湿気った風は体温を下げるどころか熱を籠らせる。
駅から出て数分なのにシャツが汗を吸って少しベタつく。
今日は自転車の方が良かったな...湿気った風が妙に匂う。
よく匂う...最近どっかで嗅いだことあるような...
悩んでいると空が轟く。
空を見上げた瞬間太陽が顔を隠し、雨が降ってきた。
夕立だ。あの匂いの正体は夕立だった。
語り部シルヴァ