『最後の声』
『俺、必ず帰ってくるから!』
『うん、私待ってる...!』
それが最後の電話になってしまった。
戦争が始まったこの国で兵に選ばれ、
勝って帰ってくると言った矢先に恋人が死んでしまった
と知らせを受けた。
まだ戦争中だっていうのに...
お互い生き延びてまた会おうって言ったのに...
もう生きる気力も失った...
恋人に会いに行ってもいいのかもしれない...
戦闘区域に手ぶらで突っ込もうとする。
『生きてくれ。俺の分まで幸せになるために...』
どこかから恋人の声が聞こえた気がした。
もう一度聞こうとしても激しい銃撃音が
飛び交う音しか聞こえなかった。
本当の最後の声を聞いた私は何としても生き残ってやる。
そう決意して安全な場所へと走り出した。
語り部シルヴァ
『小さな愛』
家にだれもいない状態。
部屋で二人きり。
このふたつが揃っていると彼女は俺の手を握ってくれる。
逆に言えばそれ以外だと会話すら成り立たない。
彼女はものすごく恥ずかしがり屋で学校で話す時も基本LINEを使って会話する。
目が合っても逸らすし授業で先生に当てられた時は一日分の体力を使って声を出す。
そんな彼女がとても愛らしい。
きっとみんなにいえば
「愛がない」と言う人も少なからずいるだろうけど...
そんな恥ずかしがり屋の彼女が手を握ってくれることがどれだけ愛があることか...
そんな考え事をしながら手を握ってくれる彼女を見つめる。
赤かった顔はさらに赤くなって手の握る力が強くなる。
けど決して繋がったこの手は離れることはなさそう。
小さな愛?違うね。彼女なりの最大限の愛情表現だ。
語り部シルヴァ
『空はこんなにも』
飛び交う罵声、それを無視する演説。
現場は混沌と化していた。
「落ち着いてください!それ以上は前に出ないでください!」
「うるせぇ!誰の金で飯食えてんだ!」
「お金取るくせにこの国は悪化していくばかり!」
警備員の私はただただ怒鳴り散らす聴衆を
なだめるしかできない。
気持ちは分かる。こいつは口だけで
お金を自分の為だけに使う。
次の選挙でこいつを落とせばいいだけ。
しばらくは我慢が必要だけど...
そんな思いで聴衆を落ち着かせること30分...
演説が終わり言いたいことを吐き出して双方解散していく。
私も仕事を終えて着替えを済ませて外に出る。
さっき演説が行われた場所はあれだけ飛び交っていた罵声が
嘘のように静かで大きな空が広がっていた。
優しい青色の空は広大で綺麗なのにその下で人間は
醜い言い合いをしていたんだなと思わされるほどに...
後でアイスコーヒーでも買ってここで休もう。
青い空をずっと眺めていたくなった。
語り部シルヴァ
『子供の頃の夢』
ベランダに出てタバコに火をつける。
いつもより長めに吸って深く吐く。
疲れた時のタバコの吸い方だ。
灰を落とさないように灰皿に落として
外の景色を見ながら黄昏れる。
外から無邪気な子供たちの声を聞くと不思議と
昔に戻りたいと思うようになったのはいつからの話だろうか。
なりたい仕事も無く仕事先では上司からの叱責、
嫌悪感ある辛気臭い環境、残業...
全てが嫌になってしまいそうだ。
「いつからこうなっちまったんだ...」
さっきの煙を深く吐いた時より重い空気を吐く。
子供の頃の夢...実家に
そういうのを書いた作文があるだろうか。
帰って調べよう。なんて気にもならなかった。
どーせ社会を知らないガキ一人の文章を見ても
イライラするだけだとわかっているからだ。
「さぁて、明日も頑張るかぁ」
俺はもう大人。文句を言わず上から回ってきた仕事を
こなすのが大人ってやつだ。
灰皿にタバコを押し付け火を消して部屋に戻った。
語り部シルヴァ
『どこにも行かないで』
17時の放課後のチャイムが学校中に響く...
外は雷を伴う雨で外で活動する部活は
夕方のホームルームが終わると体育館で
別のメニューをするか帰っていっただろう。
帰宅部の俺には関係の無い話だ。
俺もホームルームが終わり次第帰ろうと思っていた。
「...」
...同じクラスメイトのこいつに捕まるまでは。
こいつは普段無口で何を考えているかわからない。
本当に必要な時にだけ口を開くもんだから
最初口を開いた時はとても驚いだ。
クラスメイトはひとりで雨の中帰ることができないらしく、
普段迎えに来る親も都合が悪くて悩んでいるところに
俺を見つけたらしい。
時間を稼いで諦めるのを待っていたが
結局こんな時間まで諦めなかった。
仕方ない。そう思いトイレを済ませて帰る準備をしようと
立ち上がると俺の制服の裾をぐいっと引っ張り
バランスを崩して椅子に座る。
「ちょ、危ないだろ。」「お願い、行かないで」
こいつが口を開く。
よく見ると裾を持つ手がかすかに震えていた。
こいつなりに事情があるんだろう。
...そんなことされたら見捨てることなんてできない。
「わかったよ。家まで送っていくから帰るぞ。」
クラスメイトの顔が少し晴れた気がした。
俺が立ち上がると急いで
荷物をまとめて俺の背中に着いてくる。
トイレの前を通ろうとして
さっきトイレに行きたかったのを思い出した。
「悪い。先にトイレに行かせてくれ。」
「わ、私も着いていく。」
「いやさすがにダメだろ。」
語り部シルヴァ