『マグカップ』
ガシャンと大きな音を立ててマグカップが割れる。
飲み物は幸い入っていなかったが
陶器の破片がかなり散らばった。
小さい頃からずっと使っていたから
そろそろ壊れるかなと思っていたが本当に急に壊れた。
陶器の欠片を一つ一つつまみあげる。
なんだか今まで使ってきた思い出を拾い集めている気分だ。
夏にはアイスコーヒーを、寒い日にはココアを。
何気ない日常の日々の中で嗜好品を味わせてくれた。
初夏なのに冷たくなった陶器は
まるで宿っていた命の終わりのような冷たさだ。
「...ありがとう。」
そう思ったから不意に言葉が零れた。
明日からのマグカップを買いに行かなきゃな...
語り部シルヴァ
『もしも君が』
ねえ、もしも君が今辛い思いをしているなら僕は
君の力になれるかな。
飛び降りたいなら一緒に飛ぶし泣きたいことがあるなら
一緒に泣きたいな。
ねえ、もしも君が今幸せなら僕は
君から素敵な話を聞けるかな。
君の笑顔が好きだから君の幸せな話なら
どんなことだって聞きたいな。
ねえ。もしも君が今生きていたら...
僕は今も悔やむことなく君の隣にいれたかな。
あの日喧嘩別れさえしなければ君と今も
放課後の帰り道に買い食いできたかな。
ねえ...もしも君がもう僕のことを許してくれているのなら
僕はこれから幸せに生きていいのかな。
でも絶対そんな日はやってこない。
これからも僕は君のことを忘れず、
償う日々を送っていくつもりだから。
そんなもしもを考えても君が隣に現れることは無いけどね。
君のお墓の前で静かに手を合わせる僕の頭の中は
ずっとうるさいままだ。
語り部シルヴァ
『君だけのメロディ』
新曲が投稿されて早速聞いてみた時に
その違和感は確信に変わった。
半年前、推していた作曲家が無期限の活動停止を発表した。
理由は明かされなかったが精神面の疲労や
恋人から夜逃げしたとか勝手な考察がされている。
しかしある日動画アプリでその作曲家が作品を投稿した。
コメント欄では復活を歓喜するファンで溢れかえっていた。
実際僕も嬉しかった。投稿された曲を何度も何度も聴いていた。
だがずっと聴いていると心のどっかで嬉しさよりも
違和感が増えてきた。
嬉しいはずなのにこの人の曲じゃない。
そんな気がしてならなかった。
作曲の方針を変えたのか...なんて思っていた。
そして今回投稿された曲を聴いてそれが確信に変わったのだ。
この人が絶対入れているメロディが無くなっていた。
僕がずっとその人を推していた理由がわかった。
そして僕はその人を推すのをやめた。
語り部シルヴァ
『I love』
今私の隣にいるこの人は寡黙でいつもお世話になっている。
大抵の愚痴は聞いてくれるし
私がやりたいことに着いてきてくれる。
無理しなくていいよと言っても
「好きでやってるから」と嬉しいことを言ってくれる。
主体性が無いように見えてしっかりと芯がある。
そんな人だ。
今俺の隣にいるこいつは元気があっていつも世話になってる。
静かな俺の世界を賑やかにしてくれて
色んな所に連れて行ってくれて知らないことを知れる。
強要するように見えてちゃんと俺のことを考えてくれている。
自分勝手のように見えて周りのことが見えている。
そんな人だ。
幼馴染とかじゃなくて入学式の時知りあった仲。
なのに何故だろうか。
私は
俺は
家族や他の友達よりも
この人の隣にいるのが心地よい。
語り部シルヴァ
『雨音に包まれて』
今日はずっと晴れの予報だったはずだ。
それなのにそれは暗いし世界は音を立てて濡れる。
近くに丁度いい公園があってそこで急遽雨宿りをしている。
空気が湿気っていて肌がベタついている感覚と
濡れた服がピッタリと貼り着くこの感覚が
梅雨だということを教えられた気分だ。
車が走る音も急な雨に走り出す人の声もあるはずなのに
やけに静かだ。
目を瞑れば雨音しか聞こえない。
柔らかい砂に当たる雨粒と
公園の遊具に当たる雨粒は音が違う。
そんな雨音に包まれているのも悪くないと思った。
...肌も衣服もべちゃべちゃじゃなければ。
語り部シルヴァ