『I love』
今私の隣にいるこの人は寡黙でいつもお世話になっている。
大抵の愚痴は聞いてくれるし
私がやりたいことに着いてきてくれる。
無理しなくていいよと言っても
「好きでやってるから」と嬉しいことを言ってくれる。
主体性が無いように見えてしっかりと芯がある。
そんな人だ。
今俺の隣にいるこいつは元気があっていつも世話になってる。
静かな俺の世界を賑やかにしてくれて
色んな所に連れて行ってくれて知らないことを知れる。
強要するように見えてちゃんと俺のことを考えてくれている。
自分勝手のように見えて周りのことが見えている。
そんな人だ。
幼馴染とかじゃなくて入学式の時知りあった仲。
なのに何故だろうか。
私は
俺は
家族や他の友達よりも
この人の隣にいるのが心地よい。
語り部シルヴァ
『雨音に包まれて』
今日はずっと晴れの予報だったはずだ。
それなのにそれは暗いし世界は音を立てて濡れる。
近くに丁度いい公園があってそこで急遽雨宿りをしている。
空気が湿気っていて肌がベタついている感覚と
濡れた服がピッタリと貼り着くこの感覚が
梅雨だということを教えられた気分だ。
車が走る音も急な雨に走り出す人の声もあるはずなのに
やけに静かだ。
目を瞑れば雨音しか聞こえない。
柔らかい砂に当たる雨粒と
公園の遊具に当たる雨粒は音が違う。
そんな雨音に包まれているのも悪くないと思った。
...肌も衣服もべちゃべちゃじゃなければ。
語り部シルヴァ
『美しい』
私の日常は『美』で作られている。
部屋の内装、食事、仕事の内容、そして私自身。
私自身が美しくなければこの世界は美しくならない。
そのためにはどんなことも厭わない。
早寝早起き、食事制限、運動。
知識を得るために勉学に励み姿勢やマナーを学ぶ
苦手なことは多いがそれでも全ては美のため。
私が私自身を磨けばもっと美しくなれる。
洗顔やマッサージを終えて鏡を見る。
輝きを放つ鏡の前には鏡より輝く私が映っていた。
うん。今日も私は美しい。
語り部シルヴァ
『どうしてこの世界は』
「これ6番テーブルに!」
「3番のお客さんの注文まだー?」
「あっ5番テーブル誰か拭いてきてー!」
厨房内はとてつもなく慌ただしい。
休日でも祝日でもないただの平日だと言うのに...
なんなら怒号まで飛び交っている。
今日は何かあっただろうか。そう考える暇も与えてくれない。
忙しい。しんどい。
けどなぜだろう...この空間が、この忙しさがどうも心地よい。
「...ふふっ。」
なんだか楽しくなってきた。
「おいっ!笑ってないで手を動かせ!」
「あっ、はい。すみません。」
謝りつつも口元の緩みは戻らなかった。
どうやら僕はもう壊れてるらしい。
語り部シルヴァ
『君と歩いた道』
大通りから路地裏に入って道なりに進む。
あまり知られていない近道。
使いたく無かったが雨が降って傘を忘れたこの状況じゃやむを得なかった。
屋根が雨から少し守ってくれるから上がった息を整えながら速度を落とす。この路地裏は道を挟んで家が背中合わせにあって、雨を避けるにはうってつけだ。
ただ太陽が出てないのもあってかいつもより暗く不気味な雰囲気が漂っている。
こんな道だったかな...あんまり一人で通らなかったのもあるが前までのこの道のイメージが無い。
いつだってこの道を通る時は君と歩いた。
隣に並んで歩くには丁度いい道幅。
恥ずかしがり屋な二人だったからこそ人が通らないここは手を繋ぐにはうってつけな場所。
君と歩いたからキラキラしていた道も今じゃ一番通りたくない道に様変わり。
もう息も整えた。さっさと通り抜けよう。
勢いよく走り出し路地裏から抜けて急いで家へと向かった。
語り部シルヴァ