『君と歩いた道』
大通りから路地裏に入って道なりに進む。
あまり知られていない近道。
使いたく無かったが雨が降って傘を忘れたこの状況じゃやむを得なかった。
屋根が雨から少し守ってくれるから上がった息を整えながら速度を落とす。この路地裏は道を挟んで家が背中合わせにあって、雨を避けるにはうってつけだ。
ただ太陽が出てないのもあってかいつもより暗く不気味な雰囲気が漂っている。
こんな道だったかな...あんまり一人で通らなかったのもあるが前までのこの道のイメージが無い。
いつだってこの道を通る時は君と歩いた。
隣に並んで歩くには丁度いい道幅。
恥ずかしがり屋な二人だったからこそ人が通らないここは手を繋ぐにはうってつけな場所。
君と歩いたからキラキラしていた道も今じゃ一番通りたくない道に様変わり。
もう息も整えた。さっさと通り抜けよう。
勢いよく走り出し路地裏から抜けて急いで家へと向かった。
語り部シルヴァ
『夢見る少女のように』
最近妹がずっとため息をついている。
携帯が鳴った途端画面を見てはため息をつく。
このところそんな妹しか見ていない。
気になって尋ねてみると「関係ないでしょ」と
一蹴されてしまった。
俺の前ではこんな対応をするがきっと
好きな相手ができたのだろう。
画面の向こうの求めてる相手には
夢見る少女のような反応をするのだろうか。
可愛い妹が反抗的になって少し寂しいが
それほど好きな人ができて嬉しい気持ちもある。
兄としてここは暖かく見守ろう。
「何ずっと見てるの。気持ち悪いんだけど」
...やっぱり少しは前みたいに可愛げがあって欲しいな。
語り部シルヴァ
『さあ行こう』
財布に飲み物...あとは匂いがキツくない制汗剤。
これから自転車で炎天下の中恋人の家に行く。
徐々に暑くなってきて自転車で行くのも一苦労だ。
大人になれば車で涼しげに行くことができるのかな...
なんて夢を見ながら準備をする。
服装もなるべく軽装で。じゃないと汗が
すごいことになってしまう。
会いたいから自転車を急いで漕いでしまうのも
気をつけないと...
準備を整えてスマホで天気予報を確認。
最高で33度...猛暑日にしては早すぎるな。
ため息をついてスマホをズボンのポケットに入れる。
ゆっくり深呼吸して陽の光で真っ白に輝くドアを開ける。
さあ。行こうか。
語り部シルヴァ
『水たまりに映る空』
灰色の空、黒い煙をあげる煙突たち。
洗濯しても落ちない汚れを纏った作業服で今日も仕事。
ここ数年ずっと空は曇りっぱなし。
雨が降っても雨が止んでも空は灰色のまま。
今日も雨が上がった。今日こそはと願いつつ外に出たが案の定空は色を忘れていたまま。
あたりに水たまりができていて、少し湿気った空気。
水たまりを覗くと反射した空が映し出されている。
水たまりに広がる何かが反射した空を虹色に染める。
現実の空もこれくらい鮮やかに...
なんてもしもを願うよりも仕事に集中するしか
今を生きる方法が思いつかなかった。
語り部シルヴァ
『恋か、愛か、それとも』
最近ある男が気になっている。
ふとした瞬間にその顔を思い出してはため息が出る。
何度断っても奢ってくるしプレゼントを持ってくる。
申し訳ないから断ってるんだけどなあ...
あ、あと他の女の人と話しているのを見かける度に謝って
「そんなつもりは無いんだ。ごめんね」と言ってくる。
友人に話してみればみんな口を揃えて
「それはアレだね...」と答える。
あの男をの言動を思い返してみる。
最初勘違いをした私がバカみたいに思えてきた。
今日も別の友人に相談してみた。
「そりゃああんたのそれは殺意だでしょ。」
「あーやっぱり?」
私の勘違いは本当に恥ずかしいものだった。
語り部シルヴァ