語り部シルヴァ

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6/3/2025, 10:31:57 AM

『約束だよ』

「おじいちゃん...!」
「わしはもうダメじゃ...年は取りたくないものだな...」

ベッドの上のおじいちゃんはいきぐるしそうにわらう。
わたしはなにも言えないままおじいちゃんの手を
ぎゅっとにぎることしかできなかった。

「なあ可愛い孫よ、わしが死んだら悲しんでくれるかい?」
「もちろんだよ!約束!!でもしなないで!」

おじいちゃんの手をさっきよりつよくにぎりしめると
おじいちゃんはやさしくわらいながら
ねむるように目をつむった。
するとおじいちゃんのよこのきかいがピーとなる。

「おじいちゃん...?おじいちゃん!」
おじいちゃんはしんでしまった...


「まさか一日の内に家族が二人も死ぬなんて...」
「こんなことって...神様は残酷だわ。」

周りの哀れむ声がずっと聞こえる。
本当にどうしてこんなことになったんだろう...
そう思っていると夫が前でマイクを
持って涙を我慢する声で話し始める。

「えぇと...みなさん本日は祖父の○○と
娘のかなによる葬儀を始めたいと思います。」

語り部シルヴァ

6/1/2025, 10:25:26 AM

『雨上がり』

傘に雨粒が弾ける音が止む。
傘を閉じて空を見上げると雨が降りやんだ。
さっきまで聞こえた雨の音が無くなっただけで
すごく静かに感じる。
雲は太陽の光がうっすらと差して
夕暮れの黄金色に染まっている。

雨の匂いと湿気った風は残っているがさっきよりも
気分が文字通り晴れたような気がする。
子供の頃ならスキップしていたかもしれない。

しかし...暑いな。
雨で幾分が気温が下がっていたのが湿気と
日光で蒸し暑くなっていく。
もう十七時過ぎなのにこれから暑くなっていくのかと思うと
さっきまでの雨が恋しくなった。

この蒸し暑さを流してくれるような激しい雨を。

語り部シルヴァ

5/31/2025, 10:37:12 AM

『勝ち負けなんて』

四本目の矢を放った。
この瞬間に僕のチームの負けが確定した。

悔しい。だが負けたからと言って退出するまでは
雑になってはいけない。
残心、弓倒し、物見返しをして姿勢良く歩く。

退出してからみんなの元に戻る。
溢れ出んばかりの感情を声に出したかった。
けれどここは神聖なる道場周辺。
そんなことは許されないからただ悔しい思いを噛み締め
飲み込むことしか出来なかった。

試合を終え学校へ帰る道中、悔しさがずっと心残りだった。
あの一本さえ当てれていれば...もっと努力をしていれば...
自責の念で視界が狭く暗くなっていく。

そんなとき付き添いで来ていた後輩たちが
フォローしてくれた。
「先輩、最後までやりきった時の姿勢すごく綺麗でした!」
「結果は残念でしたけど、これからもご指導お願いします!」
後輩たちの言葉に励まされ自分が
どれだけ情けないか今気づいた。

過ぎたことは仕方ない。勝ち負けよりも
自分のやりたいことが出来るようになろう。
そうすればいつか自信を持ちつつ
みんなの力に繋がっていくはずだから...

泣きたい気持ちを抑え込み口角をあげて
後輩たちに「ありがとう」と伝えた。

語り部シルヴァ

5/30/2025, 10:56:12 AM

『まだ続く物語』

全ての試練を乗り越えて最後の関門を突破。
手に入れた世界一の称号に世界中が称える。
僕は世界を救った。世界を守った。
世界一の勇者になれた。

そんな優越感を宴の酒で祝い、次の朝を迎えた。
起きていつもの服に着替える途中で
世界を救ったことを思い出した。
これから何もしなくてもいい。
着替えをやめて寝具に寝そべる。

時間は止まったかのように進まず
じっとしているのも嫌になる。
起き上がって着替えて家を出た。

村人に何処へ行くのかと聞かれた。
また旅を始めようと思うと答えた。

俺は世界を救ったが知らないことだらけだ。
世界一の称号を貰ったからには
世界をできる限り知ろうと思う。
そこで得た知識でまた別のことが出来るかもしれない。
世界をもっと知って、俺自身の物語を濃く彩ろうじゃないか。

なんだか旅を始めた頃を思い出す。
俺の物語はまだまだ続きそうだ。

語り部シルヴァ

5/29/2025, 10:39:21 AM

『渡り鳥』

「やぁやぁ」
休憩中にやってきたのはワタリドリと呼ばれるやつだ。
「もうそんな季節か」
「ここはもう暖かいねえ。ちょっとジメジメするけど」
思い切り羽を伸ばしてあくびをしながらワタリドリは語る。

「今年も色んなとこ回ったんだろ?どうだった?」
「あぁ。そりゃもう___」

ワタリドリは暖かいところが好きなやつで
ここら辺が寒くなると暖かい場所へと飛んで行く。
俺より世界を知っていて俺より生きるのが楽しそうなやつだ。
俺は遠くへ飛ぶ勇気も体力も無いから
こうして土産話を聞くのが楽しみだ。

一通り話し終えたワタリドリは一呼吸置く。
どうやら次で最後の土産話になりそうだと独り言を零す。

「なら次は俺が飛んで土産話を聞かせるよ。」
ワタリドリは甲高い声で笑う。

なら、羽を伸ばして待っていると言って
一人でまた甲高い声で笑った。

語り部シルヴァ

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