『約束だよ』
「おじいちゃん...!」
「わしはもうダメじゃ...年は取りたくないものだな...」
ベッドの上のおじいちゃんはいきぐるしそうにわらう。
わたしはなにも言えないままおじいちゃんの手を
ぎゅっとにぎることしかできなかった。
「なあ可愛い孫よ、わしが死んだら悲しんでくれるかい?」
「もちろんだよ!約束!!でもしなないで!」
おじいちゃんの手をさっきよりつよくにぎりしめると
おじいちゃんはやさしくわらいながら
ねむるように目をつむった。
するとおじいちゃんのよこのきかいがピーとなる。
「おじいちゃん...?おじいちゃん!」
おじいちゃんはしんでしまった...
「まさか一日の内に家族が二人も死ぬなんて...」
「こんなことって...神様は残酷だわ。」
周りの哀れむ声がずっと聞こえる。
本当にどうしてこんなことになったんだろう...
そう思っていると夫が前でマイクを
持って涙を我慢する声で話し始める。
「えぇと...みなさん本日は祖父の○○と
娘のかなによる葬儀を始めたいと思います。」
語り部シルヴァ
『雨上がり』
傘に雨粒が弾ける音が止む。
傘を閉じて空を見上げると雨が降りやんだ。
さっきまで聞こえた雨の音が無くなっただけで
すごく静かに感じる。
雲は太陽の光がうっすらと差して
夕暮れの黄金色に染まっている。
雨の匂いと湿気った風は残っているがさっきよりも
気分が文字通り晴れたような気がする。
子供の頃ならスキップしていたかもしれない。
しかし...暑いな。
雨で幾分が気温が下がっていたのが湿気と
日光で蒸し暑くなっていく。
もう十七時過ぎなのにこれから暑くなっていくのかと思うと
さっきまでの雨が恋しくなった。
この蒸し暑さを流してくれるような激しい雨を。
語り部シルヴァ
『勝ち負けなんて』
四本目の矢を放った。
この瞬間に僕のチームの負けが確定した。
悔しい。だが負けたからと言って退出するまでは
雑になってはいけない。
残心、弓倒し、物見返しをして姿勢良く歩く。
退出してからみんなの元に戻る。
溢れ出んばかりの感情を声に出したかった。
けれどここは神聖なる道場周辺。
そんなことは許されないからただ悔しい思いを噛み締め
飲み込むことしか出来なかった。
試合を終え学校へ帰る道中、悔しさがずっと心残りだった。
あの一本さえ当てれていれば...もっと努力をしていれば...
自責の念で視界が狭く暗くなっていく。
そんなとき付き添いで来ていた後輩たちが
フォローしてくれた。
「先輩、最後までやりきった時の姿勢すごく綺麗でした!」
「結果は残念でしたけど、これからもご指導お願いします!」
後輩たちの言葉に励まされ自分が
どれだけ情けないか今気づいた。
過ぎたことは仕方ない。勝ち負けよりも
自分のやりたいことが出来るようになろう。
そうすればいつか自信を持ちつつ
みんなの力に繋がっていくはずだから...
泣きたい気持ちを抑え込み口角をあげて
後輩たちに「ありがとう」と伝えた。
語り部シルヴァ
『まだ続く物語』
全ての試練を乗り越えて最後の関門を突破。
手に入れた世界一の称号に世界中が称える。
僕は世界を救った。世界を守った。
世界一の勇者になれた。
そんな優越感を宴の酒で祝い、次の朝を迎えた。
起きていつもの服に着替える途中で
世界を救ったことを思い出した。
これから何もしなくてもいい。
着替えをやめて寝具に寝そべる。
時間は止まったかのように進まず
じっとしているのも嫌になる。
起き上がって着替えて家を出た。
村人に何処へ行くのかと聞かれた。
また旅を始めようと思うと答えた。
俺は世界を救ったが知らないことだらけだ。
世界一の称号を貰ったからには
世界をできる限り知ろうと思う。
そこで得た知識でまた別のことが出来るかもしれない。
世界をもっと知って、俺自身の物語を濃く彩ろうじゃないか。
なんだか旅を始めた頃を思い出す。
俺の物語はまだまだ続きそうだ。
語り部シルヴァ
『渡り鳥』
「やぁやぁ」
休憩中にやってきたのはワタリドリと呼ばれるやつだ。
「もうそんな季節か」
「ここはもう暖かいねえ。ちょっとジメジメするけど」
思い切り羽を伸ばしてあくびをしながらワタリドリは語る。
「今年も色んなとこ回ったんだろ?どうだった?」
「あぁ。そりゃもう___」
ワタリドリは暖かいところが好きなやつで
ここら辺が寒くなると暖かい場所へと飛んで行く。
俺より世界を知っていて俺より生きるのが楽しそうなやつだ。
俺は遠くへ飛ぶ勇気も体力も無いから
こうして土産話を聞くのが楽しみだ。
一通り話し終えたワタリドリは一呼吸置く。
どうやら次で最後の土産話になりそうだと独り言を零す。
「なら次は俺が飛んで土産話を聞かせるよ。」
ワタリドリは甲高い声で笑う。
なら、羽を伸ばして待っていると言って
一人でまた甲高い声で笑った。
語り部シルヴァ