『昨日と違う私』
昨日の私と今日の私は違うらしい。
毎日細胞が少しずつ変わっていってると
生物学の記事で読んだことがある。
そして4〜5年で細胞の殆どが入れ替わる。
...それは自分なんだろうか。
細胞それぞれが新しい自分になるなら
それはもう自分じゃないような...
言葉じゃ表すのは難しいな。
ロボットがデータだけ新しい体に移す感じ。
概念としては自分なんだろうけど...
概念だけじゃなくて数年後の自分は
見違えるほどに変われると嬉しいな。
なーんて独り言だよ。
...こんな癖も変われるのかな。
語り部シルヴァ
『Sunrise』
水平線の向こう側で太陽が顔を出す。
全然眠れない自分からすれば
失明するレベルで眩しい。
けどこれがいい。
太陽の光を浴びれば脳が起きると聞いたことがある。
それからはこうやって少しでも寝れても
寝れなくてもしっかり寝た気になってくれる。
これで小一時間は気持ちが沈むことなく過ごしやすくなる。
寝た気になれるよう思い切り伸びもしておこう。
今日も学校だ。
まあ不眠症の都合上特別学級の分類として登校しているから
そこまで気に病むことじゃないのはまだ救いかもしれない。
スマホで時間を確認すると午前5時前。
親が起きる前に朝ごはんでも作っておこう。
迷惑をかけてる分少しでもできることをしなきゃ。
柔らかい砂がまだここにいてといわんばかりに
足を奪うのを必死に抵抗して家に帰った。
語り部シルヴァ
『空に溶ける』
青空を見上げては思い出すのはタバコとコーヒーの匂い。
おじさんはいつもタバコとコーヒーを嗜むのが好きだった。
小さい頃はタバコで一部の親戚からは
文字通り煙たがられていたが、僕は好きだった。
周囲がきっちりしている大人な反面おじさんは自由奔放で
「自分のやりたいようにやる。」が口ぐせだった。
そんなおじさんのタバコの煙は工場の煙突とかと違って
細くゆっくりと上がっていく。
青空の下でタバコとコーヒー。
今思えば随分と絵になる人だった。顔もイケメンだった。
周囲と価値観が違うだけで
みんなおじさんを見ようとしていなかった。
おじさんのお葬式も涙を流す人より
悪口を言う大人の方が多かった。
誰がなんと言おうとおじさんは僕の憧れだ。
タバコが吸えるようになったら、おじさんが教えてくれなかったタバコの銘柄を当ててコーヒーと一緒に嗜んでみるよ。
そんな思いを馳せながら空を見上げていた。
火葬場の煙突からは優しく煙が上がって空に溶けていった。
まるでおじさんの吸っていたタバコのように...
語り部シルヴァ
『どうしても...』
「やだー!これ買ってー!」
「今月はもうお買い物したでしょー?約束したじゃん」
「お願い!買って!」
確かに約束で今月は買って欲しいものを
ひとつ買ってもらった。
それでもお店が後出しのように欲しいものを出すのがずるい。
わかってるけど...あれは絶対欲しい。
「もぉ...いつもなら言うこと聞いてくれるのにどうしたの?」
「あれが欲しいの。お願い...」
「そう言って使わなくなった物お家にいっぱいあるよね?
一回深呼吸してみようか。」
「うん...」
お母さんに言われて一緒に
大きく息を吸って吸ったぶんよりも吐く。
「どう?やっぱり欲しい?」
「うん、どうしても...」
「じゃあ、来月は我慢出来る?
来月の分先に買っちゃうならいいよ。」
「!うん!ありがとうお母さん!」
そう言って買ってもらったのは
ちょっと大人っぽいレターセット。
こっそりお母さんにお手紙を書きたいんだ。
驚いたり、笑ったりしてくれるお母さんの顔を見たくなった。
来月はわがまま言えないけど我慢しなきゃ。
語り部シルヴァ
『まって』
「まって!」
どれだけ呼んでも君は振り返らなかった。
そうだ。君はそういう奴だ。
昔から自分のやりたいことに真っ直ぐで
誰も邪魔することが出来なかった。
だからどれだけ待ってとお願いしても無駄なことだ。
それでも君の足を止めたい僕はこれしか方法が思いつかない。
「ねぇ!まってよ!」
それでも君は足を止めない。
「まってってば!!」
三回目により大きい声で呼ぶと
視界の景色が一瞬にして変わる。
夢だったようだ。
初夏の湿気のせいか体が汗でベタベタする。
夢の出来事を振り返ってそりゃあ待ってくれないわけだ。
と一人納得する。
君はそういう奴だ。
夢でも夢じゃなくても僕よりも進んでいて
君の背中をいつも追いかけていた。
僕はずっと立ち止まったままだ。
だから君に止まって欲しかった。
「あー...待ってて欲しかったなあ。」
僕は見たかったのは君の背中じゃなくて
君と同じ景色だったんだよ。
語り部シルヴァ