語り部シルヴァ

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5/20/2025, 10:41:30 AM

『空に溶ける』

青空を見上げては思い出すのはタバコとコーヒーの匂い。
おじさんはいつもタバコとコーヒーを嗜むのが好きだった。
小さい頃はタバコで一部の親戚からは
文字通り煙たがられていたが、僕は好きだった。

周囲がきっちりしている大人な反面おじさんは自由奔放で
「自分のやりたいようにやる。」が口ぐせだった。
そんなおじさんのタバコの煙は工場の煙突とかと違って
細くゆっくりと上がっていく。
青空の下でタバコとコーヒー。
今思えば随分と絵になる人だった。顔もイケメンだった。

周囲と価値観が違うだけで
みんなおじさんを見ようとしていなかった。
おじさんのお葬式も涙を流す人より
悪口を言う大人の方が多かった。
誰がなんと言おうとおじさんは僕の憧れだ。

タバコが吸えるようになったら、おじさんが教えてくれなかったタバコの銘柄を当ててコーヒーと一緒に嗜んでみるよ。

そんな思いを馳せながら空を見上げていた。
火葬場の煙突からは優しく煙が上がって空に溶けていった。
まるでおじさんの吸っていたタバコのように...

語り部シルヴァ

5/19/2025, 10:47:40 AM

『どうしても...』

「やだー!これ買ってー!」
「今月はもうお買い物したでしょー?約束したじゃん」
「お願い!買って!」

確かに約束で今月は買って欲しいものを
ひとつ買ってもらった。
それでもお店が後出しのように欲しいものを出すのがずるい。
わかってるけど...あれは絶対欲しい。

「もぉ...いつもなら言うこと聞いてくれるのにどうしたの?」
「あれが欲しいの。お願い...」
「そう言って使わなくなった物お家にいっぱいあるよね?
一回深呼吸してみようか。」
「うん...」

お母さんに言われて一緒に
大きく息を吸って吸ったぶんよりも吐く。

「どう?やっぱり欲しい?」
「うん、どうしても...」
「じゃあ、来月は我慢出来る?
来月の分先に買っちゃうならいいよ。」
「!うん!ありがとうお母さん!」

そう言って買ってもらったのは
ちょっと大人っぽいレターセット。
こっそりお母さんにお手紙を書きたいんだ。

驚いたり、笑ったりしてくれるお母さんの顔を見たくなった。
来月はわがまま言えないけど我慢しなきゃ。

語り部シルヴァ

5/18/2025, 10:39:37 AM

『まって』


「まって!」
どれだけ呼んでも君は振り返らなかった。
そうだ。君はそういう奴だ。

昔から自分のやりたいことに真っ直ぐで
誰も邪魔することが出来なかった。
だからどれだけ待ってとお願いしても無駄なことだ。

それでも君の足を止めたい僕はこれしか方法が思いつかない。
「ねぇ!まってよ!」
それでも君は足を止めない。

「まってってば!!」
三回目により大きい声で呼ぶと
視界の景色が一瞬にして変わる。

夢だったようだ。
初夏の湿気のせいか体が汗でベタベタする。
夢の出来事を振り返ってそりゃあ待ってくれないわけだ。
と一人納得する。

君はそういう奴だ。
夢でも夢じゃなくても僕よりも進んでいて
君の背中をいつも追いかけていた。
僕はずっと立ち止まったままだ。
だから君に止まって欲しかった。

「あー...待ってて欲しかったなあ。」
僕は見たかったのは君の背中じゃなくて
君と同じ景色だったんだよ。

語り部シルヴァ

5/17/2025, 10:38:10 AM

『まだ知らない世界』

山を登り始めて数時間が経った。
あと少しで山頂だがもう折り返して帰りたい気持ちもあった。
それでもここまで来たら進むしかない。
そう言い聞かせて一歩一歩足を持ち上げる。

ついに山頂に辿り着いた。
休憩を多く挟んだのもあったが随分と
予定より遅れてしまった。
あまり登山客がいないのもあるが周囲には人の気配が無い。
疲れているが体に休む暇を与えず
指定エリアでさっさとテントを張る。

あらかた準備でができて荷物と腰を降ろす。
足は想像以上に疲労感を覚え暫くは立ち上がれなさそうだ。
お腹も空いて体も冷えている。
用意していたご飯を残りの体力を振り絞って調理し始める。

満腹感、満足感が体を満たしたあと
記憶が飛ぶように眠りについてしまった。
調理器具など諸々そのままで
どこかへ行った心配はいらなさそうだ。
さっきまであった疲労感も
嘘のように飛ぶほど熟睡したようだ。

微睡みから覚めて慌てて時間を確認する。
良かった。まだ時間は来ていなかった。

朝ご飯を終えて食後のコーヒーを準備していると
優しい日差しが身体に呼びかける。
顔を上げると日の出とともに世界が目を覚ます景色が広がる。
登山を趣味にしてからこんな景色を見れたのは初めてだ。

まだまだ奥が深いなと関心しつつ
あの時登りきって本当に良かったと満足感を
コーヒーと一緒に味わった。

語り部シルヴァ

5/16/2025, 10:19:23 AM

『手放す勇気』

手を繋ぐのが怖い。
手を離すのが怖いから。

この手を離したくない。
離せば君がどっかへ行ってしまうかもしれない。
そんなことないよ。とフォローしてくれる君。
それでも怖い。
だから一度繋いだら離したくない。

「大丈夫だよ。私はあなたを愛してるから。」
ね?と眩しいくらいの笑顔で見つめてくる。
安心感が不安を拭っていく。
君なら大丈夫...だよね?

恐る恐る手を離す。
「ほら、大丈夫だよ!私はどこにも行ってない!」
君は両手を広げて明るく振る舞う。

君の行動は些細なこと一つでも勇気づけられる気がする。
そんな君だから好きになれたのかな。
君に近づいてありがとうと伝える。

顔を赤くしてしおらしくなった君がはにかんだ。

語り部シルヴァ

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