『木漏れ日』
晴れた空に優しい風。
木の葉が風でカサカサと擦れ合う音が妙に落ち着く。
道場の端っこで目を瞑りながら耳に入る情報に集中する。
この時期のご飯を食べたあとの休憩時間はこれをする。
優しい温かさに眠気を誘われ、
仲間たちの楽しげな雰囲気と自然の音を聞くのが好きだ。
そのまま寝てしまうのもよし、
音を聞くために頑張って起きているのもよし。
春は花粉症になってないのもあるがこれができるのが好き。
...そろそろかな。
十分耳からの情報を受けて目を開く。
仲間たちの笑顔や青い空。揺れる木漏れ日。
先に耳だけ情報を入れることであとから
視覚の情報を入れたとき、より綺麗な視界になる。
...気がするだけかもしれないが私はいつもやっている。
ルーティン的なやつだろう。
よし、昼からも頑張ろう。
ゆっくりと立ち上がり大きく伸びをして練習を始めた。
語り部シルヴァ
『ラブソング』
野外ライブをしている人を見つけた。
特に急ぎでも無いから足を止めて歌を聞いてみる。
聞いたことも無い曲で調べても出てこなかったから
オリジナルのようだ。
素人目線だがありきたりな歌詞を
淡々と並べているような曲であまり刺さらない...
歌声でカバーしているようで足を止める人たちは
歌声の事ばかり話している。
有名な曲を歌えばそれこそ人気になれそうだ。
このオリジナルにこだわる理由は
歌ってる人にしか分からないだろう。
そう考えるとこの歌もあの人の思いを綴った歌なんだろうか。
応援したくなったので財布から小銭を取り出す。
あまり持ち合わせがないのが申し訳なかったが
頑張れと念を込めて500円玉を投げ込んだ。
語り部シルヴァ
『手紙を開くと』
「手紙...?」
仕事帰りにポストを開けると見知らぬ封筒が入っていた。
封筒...の割には厚みがある。
ストーカーからの手紙の線はない...
人気者になれるほど自分はモテない。
「...?」
宛名は...無い。
なのに僕の住所を知っているのなら家族ぐらいだろう。
だが家族なら実家の住所を書くはず...
部屋に戻って封筒を適当なところに置いてことを済ませる。
ご飯や家事...お風呂を終わらせたあと、
本でも読もうかと手を伸ばす。
視界の先にさっきの封筒が入る。
...することも無いから開けてみる。
押し込められていたかのように中身から手紙が溢れてくる。
溢れ出した中からやっと一枚目を見つけた。
「差出人は...俺?」
"拝啓 数年前の俺へ"から綴られた文章が
そこから始まっていた。
始まりの挨拶に自分しか知らないことばかり
書かれていたから詐欺の類でも無さそうだった。
ちゃんとした自分からだと信じて
手紙を読み始めた。
語り部シルヴァ
『すれ違う瞳』
すれ違った人に足を奪われる。
その人の瞳は普通の目で周囲の人と変わらない。
けど、覗き込めば全てを飲み込まれてしまいそうで...
いわゆる一目惚れだろう。
家に帰ってもその気持ちは変わらなかった。
一瞬のあの光景がずっと脳裏に残っている。
あの人の目をずっと見ていたい。そんなふうに思ってしまう。
あの瞳のことを考えれば動悸がする。顔が火照る。
作業はなんにも手付かずになってしまう。
あの時声をかければ良かったと酷く後悔している。
また同じ場所に行けばいつかは会えるだろうか。
ため息が止まらない。
こんな恋は初めてでどうすればいいかもわからない。
ただ...あの瞳を思い出してはため息をつくことしかできない。
語り部シルヴァ
『青い青い』
ここの教室からの景色を見ていると
色々と懐かしく思うことがある。
始業式の緊張感、教室での告白、文化祭...
数十年前の記憶なのにこうも鮮明に再生されるものなのか。
教員免許を取って、地元の高校の教師になった。
まさか担当のクラスが当時の自分が入ったクラスと
同じになるとは思わなかった。
壁の質感とか床の模様とか少し風化しているが
それも変わってない。
あの頃の自分はこうなるとは思ってなかっただろう。
なにせあの頃の自分は先生が嫌いだった。
綺麗事しか言わない、一人一人見ているようで
見ていなかったような先生しかいなかったからだ。
もっとこうして欲しい、あぁして欲しい。
そんな思いも内気な自分は言えなかった。
だから自分が先生になってやって欲しかったことを
やり遂げようと決めた。
少しでも生徒が青春を謳歌できるような先生に...
語り部シルヴァ