『sweet memories』
これは初デートの時に初めて手を繋いだ写真。
これは文化祭の時に友達に茶化されながらも
撮ってもらった写真。
これは...
スライドすればするほど溢れかえるのはキミとの思い出。
喧嘩もしたけど、それ以上にキミと幸せな時間を過ごした。
抱きしめられた時のキミの温かさとか
デートの時の不器用ながらもエスコートしてくれる姿に
感じた愛らしさとか...
どれも素敵な思い出だ。
思い出を噛み締めるように一枚一枚タップして選択する。
写真を見る度にその時の思い出が脳裏に再生される。
あー...終わっちゃうなあ。
名残惜しいと感じてしまうが全部この場の感情だ。
全て消しますか?と携帯に問われ、
一瞬躊躇ったがはいを押す。
容量が軽くなったのかスラスラと動くスマホ。
さよなら。私の初恋。
甘いキラキラ日々は一瞬にして
真っ黒な苦い思い出に様変わりしてしまった。
語り部シルヴァ
『風と』
下り坂で自転車のペダルから足を離す。
どんどん加速して受ける風は勢いを増す。
人や車が来るのが少ないここだからこそできること。
春の日差しで火照った体が風によってどんどんと冷えていく。
心地いい...鳥やバイカーはこんな気分なんだろうか。
この風を受けたい。もっともっと風を浴びたい。
風といっしょに春を走り抜けたい。
けれど坂道は緩やかになっていく。
速度がどんどん落ちていく。
そしてあっという間に自転車は
ピタリと止まってしまった。
自転車から降りると風は僕を置いて
どこかへと吹いていってしまった。
語り部シルヴァ
『軌跡』
「ここも...」
獣道を進むと苔むした勇者の像をまた見つけた。
ただ手入れのされていない様を見る限りここら辺の人は
勇者のことをもうなんとも思っていないのだろう。
かつてこの世界を守った勇者。
勇者は自分の命が尽きるまでこの世界を旅して周り、
自分の像を作ることで平和の象徴にも
魔族の魔除けにもなると考えていた。
そんな昔話から数百年。
人々は勇者の有難みを忘れているように思えた。
勇者の像が手入れされていない。
つまり勇者が崇められていない...
なんて姑息な魔族が来てしまったら...?
もしものもしものために少し前から
勇者の像を手入れする旅を始めた。
そう、勇者の像を掃除しみんなを守るため。
...けど少しは勇者が辿った道のりを旅するワクワクも
ちょっとあるのは内緒だ。
語り部シルヴァ
『好きになれない、嫌いになれない』
私はわがままだ。
どんなときも隣にいてくれる幼馴染がいる。
映画を一緒に行ったり、親が危篤状態だった時も
何も言わず私の手を握ってくれる。
かけがえのない存在だ。
クラスメイトによく「なんで付き合わないの?」なんて
茶化されるのも慣れてしまった。
付き合う...想像できないから。と答えは決まっている。
そもそも幼馴染のことは好きなのかわからない。
ずっと隣にいるから家族のような安心感はあるものの、
クラスメイトの惚気話に私たちを当てはめても想像できない。
一時突き放して嫌いになろうと思ったけど
それも一日で我慢できず謝って事が済んだ。
私は幼馴染を振り回すわがままな人だ。
それでも隣にいてくれる幼馴染の恋人に私は値しない。
好きとも嫌いともとれない二人の距離。
それが私たちだ。
語り部シルヴァ
『夜が明けた。』
空が明るくなってきた。
真っ暗だった窓がどんどん薄い青を足していく。
もうそんな時間になってしまったのか...
動画サイトで動画を流しつつゲームをしていたら夜が明けた。
何もしていないのに達成感があるのはきっとみんなが寝ている中一人起きていたからだろう。
変なプライドだ。
親が起きないように静かにドアを開ける。
玄関を出てすぐ横の犬小屋から今から散歩かと飼い犬が笑顔で顔を出す。
折角だから散歩に行くことにした。
街灯が素早く点滅しながら消えていく。
あっという間に明るくなっていく。
ふわぁとあくびが出て、思い切り伸びをする。
それからようやくあぁ、夜が明けたと感じた。
語り部シルヴァ