『遠くの声』
真っ白な空間。
暑くも寒くもない。不思議な空間。
あれ、僕はさっきまで何をしてたんだっけ?
そう思いながらソファに腰掛ける。
...ソファなんてあったっけ。
まあ立っているよりいいか。
なんて呑気に考えつつ座りながらここまでのことを思い出そうとする。
誰かを待っているのか、今から何をしようとしていたのか...
悶々と考えていると、足音が聞こえてきた。
真っ黒なローブを羽織った髪から肌まで真っ白の少女が微笑みながら歩いて来た。
「やぁこんにちは。君も迷子かい?」
気さくに話しかけたが、少女は微笑んだまま。
なんだか不気味に感じるせいかこの場から逃げた方がいいと頭の中で警報が鳴り響く。
逃げよう。でもどこに...?
一面真っ白の空間。逃げ場を探していると、どこからか声がする。
「ねえ!起きて!」
とにかく声のする方へ走り出した。
「...!先生!患者さんが目を覚ましました!!」
語り部シルヴァ
『春恋』
春は嫌いだ。
暖かいと寒いが繰り返されてその日の服が決まらない。
花粉症だから花粉がすごくて目も鼻もやられる。
学校でそんな醜態を晒さないように
なんとかやっていけるけど...早く春が終わって欲しい。
ため息をついてガヤガヤとした賑やかな教室を見渡す。
ゆっくり左から右へと視線を流す中、視界がピタリと止まる。
...去年から仲良くしてもらっているあいつが目に入る。
今年度も一緒のクラスになって良かった。
去年を通してわかった。きっと私はあいつが好きだ。
あいつを見ると顔が熱くなる。
あいつともっと話したい。
あいつのことばっか考える。
あー...やっぱ春は嫌いだ。
語り部シルヴァ
『未来図』
録画機材、パソコン、ゲームモニター...
あとはマイク。
指差し確認をしてゆっくりゲーミングチェアに腰掛ける
なれない座り心地に体が強ばる。
それでもここまで揃えて何もしないわけにはいかない。
ここから僕は...いや俺はゲーム実況者になる。
ずっとパソコン越しに同じゲームを楽しそうにするゲーム実況者を何人も見てきた。
その楽しそうな声に、その人の手によって楽しそうに動くキャラクター。
憧れていた。俺もこんな姿に...
目標は想像よりも過酷で、未来図はまだ白紙。
でもずっとやってみたかった。
どんな結果になろうとも挑戦して見ることにした。
さ、始めよう。
録画ボタンを押して深呼吸する。
「どうもこんにちは。はじめまして!!」
語り部シルヴァ
『ひとひら』
朝なんとなくで目が覚めて散歩に出たがあいにくの雨だった。
それでも散歩に行きたい気持ちが勝り外に出た。
静かな朝で、雨音が弾ける音しか聞こえない。
一枚、また一枚と落ちていく。
桜の花びらが雨にうたれ重く散る。
桜しか見えないこの並木道は今、桜の雨が降っている。
いつもと違う散り方が雨の切なさを誘う。
この雨で今年の桜は散ってしまうだろう。
散歩に行きたくなったのはこの桜の花びらを見届けるためだったのだろうか。
雨音以外何も聞こえない。
桜はただ静かに身体を濡らし泣いているように花びらを流す。
傘から手を伸ばすと強い雨粒と一緒に
花びらがひとひら優しく舞い降りた。
語り部シルヴァ
『風景』
少し遠出をしていると美術展を見つけた。
入場料が無料だったという理由だが足を運ぶ。
美術館に入ることが少なく、少し挙動不審になってしまう。
それでも表面上は冷静にゆっくりと見て回る。
人物画、抽象画...
立体的なアート作品だったり色んな作品が展示されていた。
作品一つ一つ眺めていると、足が止まる。
いや、作品を見る度に足を止めていたが、
それの比ではなかった。
足を止められたという方が正しいかもしれない。
まるでその作品に飲み込まれるような。
魅力的な何かがあった。
その作品は海の底に日光が差す言ってしまえば
誰でも思いつくような風景画。
それなのに何故か無性に惹かれてしまう。
作品名は『溺愛』。
呼吸の仕方を忘れるほどに
この作品に惹かれる理由がわかったかもしれない。
語り部シルヴァ