語り部シルヴァ

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4/4/2025, 1:06:32 PM

『桜』

17時過ぎの空はまだ青空が少し映えてて
オレンジのグラデーションが薄く塗り広げられ、
夕日が住宅街の路地裏に差し込む。
春風が少し強く、桜の花びらが一枚、また一枚と舞い散る。

一日が終わった。暖かい陽気が
少しずつ冷えていく...少し寂しい感覚だ。
今日も頑張った...はず。
自信がないから本当に頑張れたかはわからない。

...桜と夕方で彩られた帰り道に心が洗われる。
うん。今日も頑張れた。そう思っておく。
明日も仕事だけど、きっと上手くいく。
大きく伸びをして気持ちがスッキリする。

お腹も空いたしさっさと帰ろう。
疲れたはずの体はスキップして硬いアスファルトを蹴って
桜の花びらのようにふわふわと
宙に浮く気分の中帰路を目指した。

語り部シルヴァ

4/3/2025, 10:21:13 AM

『君と』

私が泣いている時は何も言わずそばにいてくれた。
私がうるさく突っかかっても君は無言で受け入れてくれた。
私の気持ちが伝わらなくて喧嘩もしたけど
すぐに仲直りできた。

君となら、何気ない日常が楽しかった。
けど、君の寿命は早かった。
君と今年の春は見れなかった。

何気ない日常が霞んで色が無くなったように
面白みが無くなった。
君との写真を見返しては思い出す。
君が隣にいた日々、君の温もり...

ダメだよね。君ばっかりに頼ってちゃ。
君は優しい日差しの下見守ってくれてると信じて...

「私、君との思い出を絶対に忘れないから。」
君と過ごした日々を大切にして進んでいく。
そう決意した時、滅多に鳴かない君の
「ニャ」という声が聞こえた気がした。

また泣きそうになったけど、
グッとこらえて思い出を仕舞った。

語り部シルヴァ

4/2/2025, 12:08:03 PM

『空に向かって』

空に向かって伸ばした手はくうを掴み
そのまま地面に吸い寄せられるように体が落ちていく。
全部、全部これでよかったんだ。
目をぎゅっと瞑って身構える。

...宙にぶら下がっている感覚が続く。
恐る恐る目を開けると誰かが私の腕を握って
私が落ちるのを止めていた。

「何やってんの...!」
火事場の馬鹿力と言わんばかりの力で
か細い腕に引っ張られて屋上に戻る。
「ねえ、何やってんの!!」
声と容姿を確認して改めてクラスメイトと認識した。
普段何気ない会話をする程度。
ただそれだけの仲なのに助けに来たようだ。

「別に、あんたには関係ないでしょ。」
行き場を失ったイライラをぶつけないように
制服をはたいてその場を後にしようとする。

「関係あるよ!何かあったんなら教えてよ!」
ただ何気ない会話しかしないあなたには言うことないよ。
「私!力になるからさ!」
無視しようとした時その言葉に足がピタリと止まる。
もう、限界だ。

クラスメイトに近寄りお腹を見せる。
「家に帰れば親に殴られ姉に見捨てられた。
学校に居場所も無ければどこも安心なんてできない。
私がどれだけ勇気を出してこの場に居たか考えた?
あなたが力になれるのはそういうことを理解することだよ。」

そう言って今度こそ屋上を後にした。
次こそ、次こそは空に向かって手を伸ばせば届くと信じて
掴めなかった手を見ながら...

語り部シルヴァ

4/1/2025, 10:41:37 AM

『はじめまして』

いつも通りの春...ではない少し違った春が来た。
冬の終わり頃からパワハラによる休職をしていたが
一向に回復が見込めなかったことからやむを得ず
退職という形を取った。
同僚からは寂しいとの声もあったが、
また迷惑をかけるよりかはこれっきりにした方が
お互いのためでもある。
そう言い聞かせてニートを選んだ。

少し遅めに起きても誰にも責められることはないが、
仕事をしていない自分に焦りを感じている。
医師は焦らずゆっくり行きましょうと言うが
それでも有り金という時間制限は着いてくる。
休職手当もそこまで美味しくは無い。

まさかこんな春休みを体験するなんて思っても無かった。
社会人でも初めての経験があるものだ。
休職中ぼちぼちやっていた転職活動もより力を入れていこう。

春の陽気と時計の音が少しずつ現実味を見せてくる。
そんな焦燥感が募る春にはじめましての伸びをした。

語り部シルヴァ

3/31/2025, 1:51:57 PM

『またね!』

電車が発車するまであと10分。
これから僕の一人暮らし生活が始まる。
この電車がその第一歩だ。

楽しみと不安が混じりどこか落ち着かない。
車窓から見える見慣れた景色を見つめていると
少し寂しくなる。
うるさい感情たちを内心なだめていると、スマホが鳴る。

"やぁ、もう出発したかい?"
唐突に先輩からのメッセージだ。
思わず立ち上がりそうになるくらい心臓が跳ね上がる。

"いえ、あと数分で出発です。"
"そっかそっか。気をつけてね"

「ありがとうございます。と...」

返信をして既読が着いたのを確認して
再び車窓からの景色を見つめる。
すると車内に出発のアナウンスが鳴りドアが閉まる。

出発だ。
電車がゆっくりと走り出した瞬間。
外から僕の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
車窓を覗くと先輩が走っていた。

「先輩!?」
先輩は大きな声で叫んで何かを伝えようとした。

正直何を言っているかわかんなかった。
けど先輩の顔は笑顔で僕を見送ってくれた。

「...また会いましょう。先輩。」
きっと先輩がそう言ったことを信じてボソッと声が漏れる。

電車は勢いに乗ってスピードをあげる。
本当に、一人暮らし生活が始まった。

語り部シルヴァ

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