語り部シルヴァ

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3/21/2025, 10:51:37 AM

『君と見た景色』

普通棟と工業棟の間の外階段を上がる。
四階までしかないが
最上階まで辿り着いた時には軽く息が上がる。
誰もいないことを確認してマスクをずらし深く呼吸をする。
暖かくなった春の風が美味しく感じる。

呼吸を整えて落下防止の壁に体を預けて外の景色を一望する。
中庭、学校全体、学校の向こうの景色。
そして赤く染まり始めた空と夕陽。

長期休みやテスト期間じゃないと
誰も来ないという条件付きだがここは僕の穴場だ。
「あ、もう来てたんだ。」いや、僕たちの穴場だった。
友人とはクラスメイトの同じ趣味をきっかけに仲良くなった。
昼休みに一緒にゲームをするくらいには仲良くなり、
こうやって時間外でも話すようになった。
ただ2人とも内向的でみんなのいる場所で話すのは恥ずかしく
こうして穴場で景色を見ながらお互いの好きについて
語り合う仲になったというわけだ。

ただ学校内ということもありあまり長く話すことはできず、
長くて一時間程度しか話せない。

この短い時間をお互い大切にしている。
2人で景色について、ゲームについて、学校について...
色んな話をしてきた。
こうやって卒業するまで2人で語ることになるんだろう。

夕焼け空に照らされながら微笑む君と見るこの景色と一緒に...

語り部シルヴァ

3/20/2025, 10:21:48 AM

『手を繋いで』

小さい頃から手を繋ぐのが当たり前だった。
お互いの両親が笑うのもあったけど、
幼馴染の君が喜んでくれるからずっと手を繋いでいた。

けど思春期と呼ばれる今、
手は繋ぐことは無くなってしまった。
厳密に言えば向こうが断ってきた。
「流石に恥ずかしい。」その一言から幼馴染は
隣すら歩かなくなった。今日も1人で帰っている途中だ。
俺も恥ずかしいのはわかっている。
今まで繋いでいたものが無くなると寂しくなる。
また...

なんて考えていると親から電話がかかってきた。
「もしもs」「幼馴染ちゃんの両親が...!!」

言われた病院まで走り病室まで走る。
肩で息をしながら病室のドアを開けると
俺の両親と幼馴染がそこにいた。
心電図が一定音を立てて医師と看護師が慌てていた。
「貴方たちは一旦外にいなさい。」
何が何だかわからないまま両親に廊下に放り出され
近くの椅子に腰掛ける。
さっきまで暑かった体は一気に冷めてしまった。

背中が騒がしい一方で幼馴染とは静かな空気が流れている。
気になって幼馴染の顔を覗くと、
とても暗い表情をしていた。俺に出来ることは...

はっと思いつき幼馴染の手を優しく包む。
(嫌なら振りほどいてくれ...)
そう思いながら幼馴染の手に触れる。

幼馴染を見ずまっすぐと向かいの病室のドアを見つめていると、隣から鼻をすする音が聞こえてきた。
そっと手を繋ぐと幼馴染が力強く握り返す。

深呼吸して幼馴染の方を見ずに幼馴染に伝えた。
「これからは俺が支える。
また昔みたいに手を取り合っていこう。」

「うん、ありがとう。」
幼馴染の声は鼻声で悲しそうだが、
どこか安心してそうだった。

語り部シルヴァ

3/19/2025, 12:15:41 PM

『どこ?』

ある日散歩中に携帯が落ちていた。
どうしてかそれがとても気になって拾い上げた。
連絡帳などを見ていると
着信がかかり思わず電話に出てしまった。

「も、もしもし?」
"お?良かった〜。それ僕の携帯電話なんだ。
どこに落ちてた?"
「薬局近くだよ。あのよこしまが目印の。」
"あー!わかったよ!向かいに病院があったよね!
すぐ行くからちょっと待ってね!"
そう言うと電話は切れた。

どんな人なのか、服装は...
聞きたいことがあったから履歴を確認したが
どうやらこの携帯は履歴が残らないようだ。
そもそも相手側は公衆電話からかもしれないけど...

...春の陽気が眠気を誘う。
早く来てくれないかな。眠くなってきた。

まだ来ない。薬局を背に心地いい日光が当たる。
ん...?そういえばあの人向かいに病院があるって...
薬局の向かいは俺が生まれてからずっと空き地だったような...

あの人はどこにいるんだ...?

語り部シルヴァ

3/18/2025, 11:03:22 AM

『大好き』

のんびり昼まで寝ること。
美味しいご飯をいっぱい食べること。
お昼寝すること。
一晩中映画を見ながらお菓子を食べること。
好きな曲を聴きながらお風呂で歌うこと。
綺麗な景色を見に旅に出ること。
床に赤い花を咲かせること。
お薬で気持ちがふわふわすること。
君の温もりを感じること。
君で私を満たすこと。

私の大好きなこと。

そして何よりも大好きなことが、
君との時間を共有できること。

毎日が大好きで染っていくと嬉しいな。

語り部シルヴァ

3/17/2025, 10:11:40 AM

『叶わぬ夢』

「お疲れ様。今日も頑張ってたね。」
「先輩お疲れ様です!これくらい全然ですよ!もっと頑張らないと!」
「熱心だね。応援してる。」

男女の仲睦まじい景色。先輩と後輩のザ・青春な世界に思わず羨ましいと感じてしまう。
私もあんなふうに青春を謳歌したい。
...私には叶わない夢だ。

「あ、お疲れ!今日も大変だったね〜。」
私を見つけて飛んでくる。犬みたいで可愛い。
「はいはいお疲れ。私汗臭いからそんな引っ付かないで。」
そんなことないよ〜と顔を擦るように私に引っ付く。

やれやれと思いつつ満更でもないこの感情に任せて頭を撫でる。
しっぽがあったらちぎれんばかりに振っているくらいに喜ぶ。

「青春だなー。」
「うん?どうしたの?」
「いや、別に。」

本当は君みたいに甘い恋が出来たらよかったのにな。
女同士だなんて言えば君はきっと離れていく。
だから、だから...
こんな風にずっと引っ付いてね。

君の頭をまた撫でる。
君はふにゃっとした笑顔で私を見つめた。

語り部シルヴァ

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