『花の香りと共に』
桜まんじゅう、季節の桜風味の和菓子、
桜のフレーバーティー。
世まだ咲いていない桜を一足先にと
スーパーは桜に関する商品を続々と出していた。
食べ物だけじゃなく家具は桜模様だったり、
服は淡いピンク色が流行っているらしい。
中でも後で香るだろう桜の香水は絶賛人気中らしく、
在庫が追いついていないというPOPまで飾られていた。
あと2週間も経たないうちに
桜が咲いてお花見のシーズンがやってくる。
みんなその浮いてしまう気持ちを
商品を買ったりしてなだめているのだろう。
そういう風に考えれば経済はいい感じに
回っているのだと思う。
商店街も街並みも桜色で飾られた世界は
何もしていなくても心が少し明るくなる気がする。
あと少しで本場の香りがやってくる。
今は僕も気持ちだけ桜の季節を一足先に味わっておこう。
桜まんじゅうを買い物かごに入れて会計へと向かった。
語り部シルヴァ
『心のざわめき』
三年生が卒業して春休みがやってきた。
...と言っても運動部の私はほぼ毎日
学校に来て部活をしている。
三年の先輩は夏頃から引退したから人数的には変わらない。
けれど春休みの学校はやけに静かでどこが寂しげだ。
まあ、私の所属している部活はそんなに
騒がしくするものじゃないから静かな方が集中出来る。
けどなんだろう。この静けさから胸騒ぎを感じる。
今は休憩中でご飯を食べてひとり青空を見上げていた。
「春になってきてるよね。どんどん暖かくなってくる。」
物思いにふけていたらいつの間にか先輩が隣に座っていた。
「先輩...そうですね。
寒いのは好きではないので嬉しいです。」
「そっか...早く暖かくなって欲しいね。」
はい。と答えて二人で空を見上げる。
この先輩は私が部活に入ってからずっと
面倒を見てくれた世話好きで優しい人だ。
...そっか、次の春には先輩も卒業...。
ずっとそばにいてくれた先輩も離れていってしまう。
(それは、やだな...)
そんなワガママな思いを吐くのをぐっとこらえて
二人でずっと空を見ていた。
雲ひとつない青空からは優しい陽気が照らされていた。
語り部シルヴァ
『君を探して』
「そうですか...ありがとうございます。」
答えてくれた住民にお礼をしてその場を去る。
どうやらここにも君の情報は無さそうだ。
当たり前かもしれない。僕も初めて来た場所だ。
数年前、世界を崩壊に導いた大地震が起きた。
どこの国も壊滅寸前で、
ほぼ世紀末のような世界に様変わりした。
遠くに住んでいた君もあれから連絡が返ってこない。
移動手段を手に入れてから一目散に君のところへ向かった。
残念ながら君の目撃情報は見当たらなかった。
そこにあったのは...僕とお揃いのペアリングだけがあった。
元々1人を好む君だ。きっと1人でなんとか生きているはず...
そう信じて僕は国中を駆け回った。
そして今日。未開拓の最後の場所だった。
この国には君はいない。
...だから次は世界に行こう。
君が生きていることを信じて...
このペアリングを君に「忘れ物だよ」って言って渡すんだ。
語り部シルヴァ
『透明』
私の幼馴染は何を考えているかわからない。
急に私を連れ出して花火を見に行こうと言い出したり、
私からの誘いをどれだけ寝れるか挑戦したいと
言って断ったりする。
この前もお気に入りの野良猫を見つけたから一緒に
おやつあげよと言って私の返事を待たずして走っていった。
毎日振り回されてばかりだ。
本心でやっているのかそれとも
ただ何も考えずにやっているのか...掴みどころのない奴だ。
ただわかるのは悪気があってやってるわけじゃない。
現に私は嫌悪感を感じないしなんなら楽しさを感じる。
私の知らない世界に連れて行ってくれてることが
多いからだろう。
そう...例えるなら幼馴染は綺麗な水みたいだ。
濁りのない言動に掴めない本心。うん、納得だ。
なら、この水を私が土足に入って濁すわけにはいかない。
私と幼馴染。この距離感が今の心地良さを感じれるという
なら、本心かどうかなんて聞くのは野暮ってことだ。
「おーい。ちょっといい?」
ほら。またお呼びだ。
流れる水のままに任せよう。
語り部シルヴァ
『終わり、また初まる、』
風の匂いを感じた。
暖かくて優しい匂い。春が風に乗ってきた。
3月の中旬頃ということもあって、
そろそろ暖かくなってきたのだろう。
今朝は寒かったものの、お昼のこの時間帯は
暖房も上着も要らずで窓を開けても平気なくらいだ。
雪解けのようにゆっくりと
冬が終わっていくのを感じると共に、
今年度の初めましての春がやってきた。
ポカポカと陽気に当てられてまどろむ日々を思うと
早く来てくれと願う反面、
寒さがなんだか寂しくなっていく気がする。
まだ寒さが残っているからだろうか、
暖かい日差しを受けているのに体がゾワっとした。
語り部シルヴァ