『透明』
私の幼馴染は何を考えているかわからない。
急に私を連れ出して花火を見に行こうと言い出したり、
私からの誘いをどれだけ寝れるか挑戦したいと
言って断ったりする。
この前もお気に入りの野良猫を見つけたから一緒に
おやつあげよと言って私の返事を待たずして走っていった。
毎日振り回されてばかりだ。
本心でやっているのかそれとも
ただ何も考えずにやっているのか...掴みどころのない奴だ。
ただわかるのは悪気があってやってるわけじゃない。
現に私は嫌悪感を感じないしなんなら楽しさを感じる。
私の知らない世界に連れて行ってくれてることが
多いからだろう。
そう...例えるなら幼馴染は綺麗な水みたいだ。
濁りのない言動に掴めない本心。うん、納得だ。
なら、この水を私が土足に入って濁すわけにはいかない。
私と幼馴染。この距離感が今の心地良さを感じれるという
なら、本心かどうかなんて聞くのは野暮ってことだ。
「おーい。ちょっといい?」
ほら。またお呼びだ。
流れる水のままに任せよう。
語り部シルヴァ
『終わり、また初まる、』
風の匂いを感じた。
暖かくて優しい匂い。春が風に乗ってきた。
3月の中旬頃ということもあって、
そろそろ暖かくなってきたのだろう。
今朝は寒かったものの、お昼のこの時間帯は
暖房も上着も要らずで窓を開けても平気なくらいだ。
雪解けのようにゆっくりと
冬が終わっていくのを感じると共に、
今年度の初めましての春がやってきた。
ポカポカと陽気に当てられてまどろむ日々を思うと
早く来てくれと願う反面、
寒さがなんだか寂しくなっていく気がする。
まだ寒さが残っているからだろうか、
暖かい日差しを受けているのに体がゾワっとした。
語り部シルヴァ
『星』
まだ寒さが続く夜の下、手袋を忘れてしまい手をコートの
ポケットに突っ込み肩を震わせながらトボトボと歩く。
早く暖かくなって欲しい。服のかさ増しで肩こりが
酷くなったり朝の準備が多くなって嫌だ。
そのせいで少しでも早く
布団から出ないといけないのは朝から地獄だ。
ため息をつくとマスク越しにでも口から白い息が漏れた。
その白い息を消えるまで見送ると空は満点の星空だった。
「おぉ...綺麗。」
白い息があとも上を見ながら歩いていると
前方から強い衝撃を受けた。
「〜〜〜〜っ!!!」
咄嗟に頭を抱える。
寒さは吹き飛び自分の周りに星がキラキラと輝いている。
あぁもう散々だ。さっさと帰ってご飯を食べて寝よう。
ぶつけた部分を冷たい手で冷やしながら
チカチカした視界をフラフラしながら帰った。
語り部シルヴァ
『願いが一つ叶うならば』
家に帰った瞬間。ここが悲惨な現場に
なっているなんて誰が予想出来ただろうか。
休み明けの出勤日。
ゴミ出しも忘れず仕事もこなせて順調なスタートを切れた。
家に帰れば愛しのわんちゃんがお出迎えして
一緒にご飯を食べてのんびりするというのが理想だった。
なのに家に帰ってもわんちゃんは顔を出さない。
いつもと違う。そんな違和感を覚えて
恐る恐る廊下を歩いてわんちゃんを探す。
台所でわんちゃんの背中を見つけた時は安堵した。
そのまま歩いていくと、全てを理解した。
棚の鍵を閉め忘れていたようで、
中身をわんちゃんがぶちまけていた。
あぁ、神様。今願いをひとつ叶うなら...
朝の自分に戸締りをチェックするよう言ってください。
しょんぼりしているわんちゃんを怒るに怒れない私は
すぐさま片付けることにした。
語り部シルヴァ
『嗚呼』
「じゃ、補習だからやっとけよ〜」
担当代理の先生はそう言いながら教室を出ていった。
先生が出て行ってすぐに教室はガヤガヤ音でうるさくなる。
確かに静かにしとけとは言われなかったけど...
高校生にもなってルールを守れないものかとため息をついてやるはずだった範囲を教科書を見つつ勉強することにした。
こんなバカ真面目だから。
という理由でクラス委員長を任されたが正直やる気は無い。
仕事も無ければクラス委員長だからとみんなが
言うことを聞いてくれるわけでも無さそうだ。
授業開始30分。
思ったよりもやる範囲が狭く終わってしまった。
次の授業分も...と思ったが次は今日やる予定だった部分を
やるだろうと思い教科書を閉じた。
あと半分ちょい。
周囲の様子を見ると最初とほぼ変わっていなかった。
ゲラ笑いするカースト上位の女子、
スマホの音量を大にしてゲームする男子。
静かに、それでも目立ってしまう男子たち...
いつも通りだ。
やることが無くなったから空を見ながら寝ることにした。
嗚呼、今日も平和で何よりだ。
語り部シルヴァ