『夜空を駆ける』
刹那、真上に輝く一等星を掴める気がしたと
思ったら思い切り下に引っ張られた。
上へ下へ。右へ左へ。目が回る。
怖い怖い怖い。けど楽しい。
いつの間にか叫び声は弾み始める。
だんだんと余裕が出来て全方位に見える星空を掴めるような気がした。
もっと、もっと手を伸ばせば...
座ったままで固定された姿勢で腕をひたすら伸ばす。
ただただ冬の冷たい風を切る感覚だけが手の内に収まる。
どんどんと速度が落ちていく。
あぁ...もう終わってしまうのか...もっと味わいたかった。
風を切る感覚を、星に届きそうだった思いを。
「ご乗車ありがとうございました!
足場にお気をつけてお降り下さい!」
「いやー楽しかったね!」
「最初は怖がってたのに後半すごい楽しそうだったよね(笑)」
「恥ずかしいからやめて!
だってジェットコースター久しぶりだったもん。
しかも夜に乗るなんて初めてだったし...」
語り部シルヴァ
『ひそかな想い』
「ただいまぁ」
「おかえり!ご飯丁度できたよ!」
「あ、あぁ。ありがとう。」
普段やってないことをしてるせいか
動揺を隠しきれていない。
ふふ、作戦は大成功だ。
「ねえ、今日はお風呂も豪華にしたから楽しみにしてね!」
「そんな贅沢するなんて珍しいな...
あれもしかして俺記念日とか忘れちゃってる?」
「毎日が記念日みたいに大切にしてくれると嬉しいな...」
「そういう意味ね。
俺たち付き合ってから毎日が記念日みたいなもんだろ!」
大きい声で笑いながら上着と仕事カバンを
ぽいっと捨て椅子にどかっと座る。
一瞬自分の目がピクっと反射的に動いたのを感じたが
バレないよう平静を装う。
手を後ろで組んでぎゅっと握る。
「ん?どうかしたか?」
「んーん、なんでもないよ!
あ、お風呂上がったらプレゼントがあるから
楽しみにしてね!」
離婚届。浮気してるあなたにぴったりだよね。
語り部シルヴァ
『あなたは誰』
"あなたは誰?"
こう返信するとすぐに既読がついて
"私は私。それ以外の何者でもないよ"
と返ってくる。
少し前から匿名で使えるSNSから
相談に乗ってくれる人が現れた。
趣味が似たようなもんだからすぐに打ち解けたものの
後から気になってきた。
そりゃあ匿名で使えるからこそここにいるわけで
正体を明かせば意味が無い。
けれどあまりに自分に都合が良すぎる。
趣味が合って、相談に乗ってくれて、
いつでもタイミングがいいのかすぐ返信が来る。
気になる。別に話す間隔を開けても返信は来る。
けれど不気味に感じないのも不思議だ。
「あなたは...誰?」
相手のプロフィールをタップしても
"相手のプライベートは表示できません"と
表示されるだけだった。
語り部
『手紙の行方』
「おっ、久しぶり〜」
「お〜前に会ったのっていつだっけか?」
「いつだろうなあ〜。」
「というかさ、前に手紙送ったのに
返事無かったけどどうしたの?」
「え?手紙〜?」
「そうだよ。ちょっと前にやり取りしたじゃん。」
「あー!あったね〜!
あれってそっちから終わったんじゃないの〜?」
「違うよ!返事送ったあとに終わっちゃったんだよ。
届かなかったのかな...」
「あー...思い出した〜。」
「え、じゃあなんで返事してくれなかったの?」
「食べた。」
「え?」
「お腹空いてたから食べちゃった〜。」
語り部シルヴァ
『輝き』
一面雪景色。
地面も山も木も全部真っ白で、
太陽の光が反射してキラキラと輝いている。
吐く息までも真っ白になって、
目が痛くなるほど目が白で覆われる。
吸い込む息は新鮮と感じるほど冷たく、
肺がじんわりと冷たくなっていく。
あとはスキー板じゃなければ
自由に移動できる開放感で満たされたかもしれない。
今日はスキーをしたいと友人が駄々こねてたので
半強制的に連れて来られた。
出不精な自分からすれば珍しい体験だけど、
寒いしスキー板で思うように移動出来ないし、
1秒でも早く板を外したいくらい。
...滑るのは楽しいと思う。
そう思いながらコースを滑り終えて借りていたスキー板を
返して友達の元へ行く途中何かが背中にボスっと当たった。
「やったー!当たった」
「やってくれたな...?これ勝ったら飲み物奢れよな!」
人の邪魔にならなさそうなところで
タイマンの雪合戦が始まった。
正直最初は早く帰りたかった。
けど、スキーを楽しそうに滑ってたり今の友人の笑顔を
見ていると来てよかったとも思う。
太陽に反射した雪原よりも輝かしい友人の笑顔が眩しく
雪玉を食らってダウンした。
俺の負けだ。温かくてとびきり甘いココアを奢らないとだ。
語り部シルヴァ