『手紙の行方』
「おっ、久しぶり〜」
「お〜前に会ったのっていつだっけか?」
「いつだろうなあ〜。」
「というかさ、前に手紙送ったのに
返事無かったけどどうしたの?」
「え?手紙〜?」
「そうだよ。ちょっと前にやり取りしたじゃん。」
「あー!あったね〜!
あれってそっちから終わったんじゃないの〜?」
「違うよ!返事送ったあとに終わっちゃったんだよ。
届かなかったのかな...」
「あー...思い出した〜。」
「え、じゃあなんで返事してくれなかったの?」
「食べた。」
「え?」
「お腹空いてたから食べちゃった〜。」
語り部シルヴァ
『輝き』
一面雪景色。
地面も山も木も全部真っ白で、
太陽の光が反射してキラキラと輝いている。
吐く息までも真っ白になって、
目が痛くなるほど目が白で覆われる。
吸い込む息は新鮮と感じるほど冷たく、
肺がじんわりと冷たくなっていく。
あとはスキー板じゃなければ
自由に移動できる開放感で満たされたかもしれない。
今日はスキーをしたいと友人が駄々こねてたので
半強制的に連れて来られた。
出不精な自分からすれば珍しい体験だけど、
寒いしスキー板で思うように移動出来ないし、
1秒でも早く板を外したいくらい。
...滑るのは楽しいと思う。
そう思いながらコースを滑り終えて借りていたスキー板を
返して友達の元へ行く途中何かが背中にボスっと当たった。
「やったー!当たった」
「やってくれたな...?これ勝ったら飲み物奢れよな!」
人の邪魔にならなさそうなところで
タイマンの雪合戦が始まった。
正直最初は早く帰りたかった。
けど、スキーを楽しそうに滑ってたり今の友人の笑顔を
見ていると来てよかったとも思う。
太陽に反射した雪原よりも輝かしい友人の笑顔が眩しく
雪玉を食らってダウンした。
俺の負けだ。温かくてとびきり甘いココアを奢らないとだ。
語り部シルヴァ
『時間よ止まれ』
朝から出かけて綺麗な景色を見に行って
神社に行ってカフェでコーヒー。
昼からゲーセンで遊んでカラオケ。
充実した1日だったと思う。
電車に揺られて赤くなった空を眺めながら
満足感に浸っていた。
普段は丸一日出かけることはしないけど、
今日は気分で外に出てみた。
景色だけ見に行こうと思ったけどあれもこれもと
予定を詰めまくってしまってまさか
夕方になるとは思わなかったほどだ。
明日は休みで家から出たくないという
性分もあるんだろうけど...
ぼーっとしていると夕陽がビルの隙間を縫って車内を照らす。
今日は好きなラーメン屋さんにでも行こうかな。
あー...こんな幸せな気分がずっと続けばいいのに。
時間が止まれば...ずっと幸せなのになー。
いや時間が止まればラーメン食べれないな。
電車が止まり降りる駅名をアナウンスしているのが聞こえて
慌てて電車から降りた。
語り部シルヴァ
『君の声がする』
-今日は何してたの?-
-本読んでたのとバイト。-
-本って前読んでたやつ?-
-あれは読み終わったから別のだよ。-
-そかそか-
-うん。-
...会話が続かない。
元々部屋で言葉を交わさず引っ付いてそれぞれ好きなことを
したりイチャイチャしたりしていたこともあってか、
メッセージや電話だと全く会話が弾まない。
同じ趣味の話だと盛り上がることはあるけれど最近は
新作が出る様子もなくあんまり話題に挙げない。
遠距離恋愛はしんどいのは知っていたがここまでとは...
愛に飢えやすい自分にとってはものすごい苦痛かもしれない。
「...寂しいな。」
ポロッと零した言葉は心の中で霧となりモヤモヤする。
口には出せどそれを文字に打ち込むことは無かった。
ワガママがすぎるからだ。
遠距離恋愛になる選択をしたのは自分で、
それを応援してくれた気持ちを裏切ることになる。
もっと話したいけど、本を読んでるかもしれないから
邪魔しないように携帯の電源を切って画面を伏せる。
数分経って恋人からメッセージが来た。
...音声ファイル?
"やぁ。...私も寂しいよ。次会える日決まったら教えてね。
全力で予定空けて君との時間いっぱい作るからね!"
恥ずかしそうに喋る恋人からの音声メッセージだ。
...携帯から君の声がする。
それだけでさっきのモヤモヤはより濃くなる。
けれど不快感はそれほどなく、
幸せになってしまうのは君にしかできない魔法なんだろか。
語り部シルヴァ
『ありがとう』
残業続きで目が痛い。
けれどこれを終わらせたらやっと休みだ。
上司が俺の事を気遣ってか明日から三連休。
ゲームしてお出かけして昼寝いっぱいして...
やりたいことをとことんするぞ。
「...よし。」
ファイルを保存したのを確認すると思い切り伸びをする。
終電...はもう無いか。
荷物をまとめて帰ろうとすると、
給湯室から明かり漏れていた。
こんな時間に...?
そっと覗くと先輩がコーヒーを飲んでいた。
「お?お疲れ〜。思った以上に早かったな。」
「お疲れ様です。ってなんでいるんですか?」
「いやいや、君と同じく残業だ。
君より少し先に早く終わったからコーヒーをと...
席が近いのに集中しすぎて気づかなかったのか...」
全然わからなかった。それに独り言を聞かれていると思うと恥ずかしくなってきた。
「にしても先輩、先に帰らなかったんですね。
もうこんな時間なのに...」
「なんだ〜?君はこんな時間に女ひとりを
帰らせるつもりか〜?」
「あー...なるほど。近くまで送りますよ。」
それでいい。と少し満足気に先輩は笑う。
「あ、これお礼の先払いね。」
そんなこと言いながら先輩は何かを投げてくる。
「うわぁっととと...これって...」
「ハッピーバレンタイン。いつも頑張る君に選別だ。」
よし、やることもやったし帰るか〜
と先輩は1人歩き出す。
そんな先輩を見て慌てて背中を追いかける。
ホワイトデーは何十倍にして返そう。
もちろん尊敬と感謝という意味で。
勝手にセルフツッコミを入れつつ
足早な先輩に追いつくために早足になった。
語り部シルヴァ