『君の背中』
「ね、ねぇ。もういいよ?」
「ダメです。先輩足を痛めてるんですから
少しでも負担かけないようにしないとです。」
「重いでしょ?それに恥ずかしいよ...」
「先輩軽いので大丈夫ですよ。
恥ずかしいのは...我慢してください。」
数メートル進む度にこのやり取りをしてる気がする。
さっき後輩とご飯に行った帰り道で
つまづいて足を痛めてしまった。
大丈夫と押し切ろうとしたけど、
ぎごちない歩き方を見てか後輩は私をおぶると言い出した。
周囲の目も気になると言ったけど
折れない後輩に負けておぶってもらうことになった。
「そういえば先輩、
今日は靴がいつもよりオシャレでしたね。」
「え?うん、あんまり履きなれてない靴で
来ちゃったからのもあるんだろうなあ...
ちょっとこれから買うのも考えものだなー...」
「確かに先輩いつもスニーカーとかですもんね。
でも今日の靴可愛かったからちょっと残念ですね...」
何気ない会話の中、
この後輩は平気でこういうことを言える。
下心がある訳ではなく、純粋に思ったことを言う人だ。
咄嗟に私をおぶろうとしたり、サラッと褒めてくれる。
...私の気も知らないで。
少し強めにしがみつく。優しい温もりが心地よい。
君の背中ってこんな頼れる大きな背中だったんだ。
私の行動に後輩は少し慌てた様子で
どうしたんですか!?と聞いてくる。
「ちょっと寒いだけ。あともうちょっと頑張ってね。」
後輩は「は、はい!」と答えて進む。
暑いくらいの熱を後輩の背中と私の顔から感じた。
語り部シルヴァ
『遠く...』
人として進んでいると実感するのは君が見ていた景色を見た時だ。
人として怒る時、意見を述べる時、別れを切り出す時。
あの日々の中で君が僕にしたことやしてくれたことを僕がする側になるといつもそう感じる。
なぜなら君は僕よりずっとずっと大人だったから。
そりゃもう人生のお手本のようなレベルで...
あの時の君はこんな感情だったんだ とか
あの頃の僕はどれだけ子供だったんだ とか。
フィードバックするには遅すぎる。
それなのに君が現れてはどれだけ大きな存在か、君と僕の人としての差がどれだけあったかを痛感する。
君は大人すぎて僕は子供すぎた。
そりゃずっとは続かないだろうけど、もっと一緒にいれると思ってた。...こういう所だろうな。君と僕の違いは。
君は僕よりも進んで僕は君との過去の為立ち止まって...
いざ進み始めたとしても君との距離はどんどん広がっていく。
だから君が見ていた景色を僕が見た時、いかに君が大きくて遠い存在だったのか、君のような人に近づいているのかと思うのだろう。
君のような人間性を目指しているけど、
その目標がどれだけ遠くにあることか...
数年経った後でも知れたのは成長なんだろうか。
語り部シルヴァ
『誰も知らない秘密』
携帯を持ち上げて内カメラで確認しつつ微調整をする。
いい感じに決めてシャッターボタンを押す。
撮れた写真を確認して加工する。
肌白く、色を鮮やかに、周りのものが見えないように
モザイク。
2、3度確認して文章を打ち込む。
「新しい服早速着てみた。可愛い〜」っと。
投稿してものの数秒でいいねが来る。
数分もすればコメントが何個か来る。
「新しい服いいね!」
「可愛い!」「こういう彼女が欲しかった...」
この1枚で何がわかるのかわからないけど、
沢山褒めて貰えると嫌な気分にはならない。
満足して通知をミュートにする。
リアルだとあんまり褒められない容姿が
この世界だとうんざりするほど褒められる。
だからこっちの世界の方が私は好きだ。
何も知らない人達からのいいねやコメントが暖かくて
居心地がいい。
リアルにも、もちろんこの人たちにも本性は絶対に教えない。
この世界は私という私を
誰も知らないからこそ輝ける秘密の世界。
語り部シルヴァ
『heart to heart』
「待って!」
文化祭以降どことなく素っ気ないクラスメイトに
いい加減嫌になって俺を置いてどこかへ行こうとする
クラスメイトを呼び止める。
「...何?」
だるそうに振り向くクラスメイトに怖気付くも
言葉を腹から引っ張り出す。
「俺!ちゃんと話がしたいんだよ!」
「やっても無駄だと思うから話をしないんだよ。」
聞く耳を少しでも持ってくれるなら...
「文化祭でのバンド良かったよ!
これからもやっていこうよ!」
「...結局ごっこ遊びみたいなレベルじゃん。
俺はもっと本気でやりたいんだよ。」
「なら!もっと本気でやり込んで楽しみながらやろうよ!」
「本気...?やったことも無いくせに知ったような口を...!」
「あぁそうさ、バンドなんて文化祭前が初めてだった。
けど知ったんだ。お前と演奏したあの曲がずっと
心に残ってる...!お前もそうだったはずだろ?」
その言葉にクラスメイトは顔を伏せる。
確かにあの時完璧とは言えなかったけど
あの時のクラスメイトの顔は満たされていた。
あの顔をもっかい見たいんだ...!
「本気で...俺もやってみたい。連れてってくれよ。
本気の先にある景色を...」
言いたいことは言った。
恐る恐る顔をあげる。
ため息をついて頭をガシガシしながら...
「...無理だと思ったら放っていくからね。」
差し出された手を勢い握り「上等だ」と返す。
語り部シルヴァ
『永遠の花束』
「これからも...そばにいてくれませんか?」
そう言いながら結婚指輪と共に不思議な感じの花束を
差し出される。
花束のことについて聞いてみたいけど、
今喋れば鼻声になっちゃうし嬉しいで胸がいっぱいだ。
「こちらこそよろしくお願いします...!」
12本の青いバラの花束。
魅力的で神秘的。
それから私たちはすぐに結婚し、子供も産まれた。
大きくなった子供が私に問いかける。
「ねーねー。このお花ってお父さんがくれたんだよね?」
「そうだよ〜。パパがくれた時からずっとこのままだよ〜。」
「枯れないの?」
「これはね。プリザーブドフラワーっていうお花を
枯れないようにした不思議な花束だよ。」
永遠に誓い、変わらない愛らしい。
...不器用で大好きな夫だ。
語り部シルヴァ