『羅針盤』
天気は良好。
風も穏やか。
この様子だと唐突に来る嵐も無さそうだ。
1面海。ゆらゆらと揺れる船も心地よく感じる。
地図を取り出して目的地を確認する。
...うん。今どこにいてどこへ向かってるか全くわからない。
おそらく地図通りに行けてるはずだろうけど...
それでも不安しかない。
「船長!このまままっすぐですかぃ?」
舵手が大声で確認を取る。
右も左も海で島すら見えない。
それなのにわかるわけが無いだろ...
「あ、あぁ!まっすぐ進め!」
「おー!」船員の返事と共に船はまっすぐ進む。
船員にバレないように羅針盤を確認する。
赤い矢印は上を刺している。
北...とりあえず北に進めば問題ないだろう。
羅針盤を閉じて船の見晴らしのいい場所へと登る。
今はこの潮風を感じるだけでいいのかもしれない。
語り部シルヴァ
『明日に向かって歩く、でも』
目が覚めた時には太陽はすでに真上まで登っていて、
スマホは友達からの心配のLINEが大量に来ていた。
"1限目来てないけど大丈夫!?"
"姿見えなかったから一応プリントもらったよ〜
課題内容も載せとくね!..."
LINEの内容を見てはっと目が覚める。
授業を飛ばしてしまった。
昨日はちゃんと寝たはず...いやちゃんとではなかったっけ。
2日前に別れを切り出されて、
何も出来ずに一日を過ごしてしまった。
その反動で昨日は丸1日寝ていたのだろう。
正直まだ完全には立ち直れていない。
けど今日までも無駄にする訳にはいかない。
友達へ返事を送り、ベッドから降りて顔を洗う。
スマホの写真アプリを開いて消せなかった写真を消す。
...2人の後ろ姿の写真は消せなかった。
明日をよりよくするために半日からでも頑張ろう。
でも...今は振り返る居場所も残しておきたい。
1枚だけ写真を残して写真アプリを終了した。
語り部シルヴァ
『ただひとりの君へ』
ただひとりの君へ。
君はかけがえのない存在だ。
他の人に君の代わりなんていない。
君だから...
ここまで書いてペンを置く。
くさい。いや毎日お風呂に入ってるからそっちじゃない。
どうも言葉がくさくってしまう...
もっとこう...特別な言葉を使いたい。
普段の語彙力の無さを思い知らされる。
「ねえねえ、何してるの?」
「あっ、ノックしてよ〜」
中学生みたいなセリフに笑う彼女に恥ずかしくなる。
「あー、もしかして結婚の...?」
「そうそう。なるべく君にも初見で聞いて欲しいから...」
「どーせくさいセリフばっかになって悩んでるんでしょ。」
悩む理由を当てられ、彼女はニヤニヤと笑う。
「どんなスピーチでも楽しみにしてるよ。頑張ってね。」
俺の頬にキスをしてリビングに来たら、
コーヒー飲もうねと言い彼女は部屋から出ていった。
...彼女のためにももっと頑張ろう。
ペンを持ち新しい紙と向き合った。
語り部シルヴァ
『手のひらの宇宙』
私の大事なもの。
昔おばあちゃんから貰ったお守り、
高校の思い出の1ページ、
可愛い娘、
愛しい旦那さん、
そして私自身。
指を折りながら自分の大事なものを確かめる。
私の好きな物は空に広がる星のように沢山ある。
その中でも特に好きで大切なものが今数えたもの。
これらがないと今の私じゃないと言えるほど。
地球に月があるように、そのまわりに宇宙があるように。
この宇宙は私が守り続ける。
自分の手のひらの中で、自分の手が届くこの範囲を。
語り部シルヴァ
『風のいたずら』
外に出ると風が吹き荒れていた。
気温も低く外に出るには少々辛い。
厚手のジャンパーにマフラーを巻いたがそれでも寒い。
必要なものが無くなったから買い物に行こうかと
出たばっかりにこれだ。
寒い。さっさと買い物を済ませよう...
1歩1歩進む足は冷えて今にも凍りそうだ。
下も中に1枚履くべきだったか...
身を縮こませながら歩いていると更に突風が吹く。
しっかりと巻いていたマフラーが吹き飛んでしまった。
マフラーはひとりでにふわふわと
風に乗ってあっという間に姿を消した。
空もマフラーが欲しかったのか...
悲しい気持ちを誤魔化そうと頭を正当化させつつ
買い物リストにマフラーを足した。
語り部シルヴァ