『とりとめもない話』
犬が吠える。
帰り道の夕焼け空が赤くなる。
子供たちが高い声をあげて家へ帰る。
それを見たカラスがガラガラ声で去っていく。
野良猫が媚びる。
辺りに晩御飯の香りが漂う。
そんな匂いでお腹が空く。
空はどんどん暗くなっていく。
帰ろうかな。
スマホを覗く。
眩しくて目を狭める。
もういいや。スマホをポケットに入れて歩き出す。
この話にオチもない。おしまい。
語り部シルヴァ
『風邪』
うつらうつらとしていた意識が体温計のアラームで
少し目が覚める。
38°...完全に風邪のようだ。
この時期だからもしやとは思っていたが
本当に風邪を引くなんて...
喉が痛い。熱があるくせに寒い。視界が少し歪む。
冬に風邪を引くと決まって小さい頃を思い出す。
静かな外に加湿器の静かな音、お母さんが
すりおろしてくれたりんごの味。
あのりんごの味を超えたすりおろしりんごは今までない。
お母さんが私を思ってすりおろしたりんご...
きっと親の愛情なんかがあったんだと思う。
大人になってもまた親に甘えたいな...
なんて口が裂けても言えないから
自分で加湿器とりんごを準備し始めた。
語り部シルヴァ
『雪を待つ』
外はどんどん寒くなる。
天気予報だとまだ初雪はまだ先のようだ。
窓越しに空を見上げる。
急に雪も降りそうにない晴れた空。
私は雪が好きだ。
雨と違って左右に揺れながらゆっくり落ちていって、
しんしんとして静かになる空間。
そんな景色を見ながらあったかいココアを飲むのが
最近の楽しみ。
あかぎれとか乾燥とかのケアが大変だけど...
雪が好きだと友達に話すと学校が無しになって
帰れると言うからとりあえず合わせてるけど...
ばばくさいと言われるのが目に見えてるから
これでいいと思う。
窓を開けて思い切り息を吐く。
白い煙になって空に消えていった。
寒いのはわかってるけどそれほど雪が降るのが待ち遠しい。
さすがに寒いので窓を閉めてコタツに潜り込んだ。
語り部シルヴァ
『イルミネーション』
街はいつもよりさらに煌めいている。
カラフルな電球が街路樹に建物に飾られ、
夜の姿はいつもよりおめかしされていた。
正直イルミネーションの綺麗さはわかんない。
車のライトが眩しく感じるのと同じで、
チカチカと点滅されると目が痛くなる。
それに何より寒い。いつもより着込んだはずなのに
やたらと芯まで冷えるような感覚が続く。
あー...やっぱり帰りたい。
寒いのが苦手だから断ろうと思ったけど...
ちらっと横目で隣にいる先輩の顔色を伺う。
先輩の目は夜の街よりもキラキラしている。
俺に気づいたのか先輩はこっちを向いて
満面の笑みで話しかける。
「寒いの苦手って言ってたのにごめんね!
でも来れてよかった!すごい綺麗で視界が眩しいよ〜」
「そりゃあ良かったです。けど先輩、1人で来れますよね?」
「やだなあ。カップルが多い中1人で来るの虚しいじゃんか。
こういうの誘えるの君くらいなんだし...」
「そりゃあそうですけど...
それなら俺達もカップルに見られますよ。」
ちょっとからかい気味に先輩に返すと、
先輩は今更気づいたのか隠せてない照れ笑いをして
顔を一気に赤らめた。
...先輩の普段見ない一面をみれただけでも
今日は来れてよかったのかもしれない。
なんてクサイセリフは言えないので、
「先輩、顔真っ赤ですよ〜。
もしかして実はデートのお誘いだったり...?」
といつもの調子でからかってみた。
その後、先輩の返答を聞いて、
先輩と同じように顔を赤らめ体の芯まで熱くなった。
語り部シルヴァ
『愛を注いで』
「はい、今日のお昼。
朝はお腹すいてなかったの?下げとくね。」
手のつけたあとの無いトレーを下げて、
代わりの料理が置かれているトレーを置く。
「何かあったらこのボタンを押せばすぐに来るからね。」
そう言ってボタンを握らせる。けれどもボタンは
すぐポロッと落ちてしまう。
けれど私がずっと行動すればいつかは満たされる...はず。
「...また来るからね。」
そう言って部屋に戻る。
ここに来てからずっと彼は動かない。
ご飯こそ最初は食べていたが今じゃ全然手を付けない。
けれどきっと、私の気持ちをわかってくれたらその時は...
そう信じて今夜のご飯のメニューを考える。
次こそ彼の胃袋を掴むようなご飯を作って見せよう。
そう思いながら彼の手を付けなかったご飯をかじる。
ベーコンとパンは乾いた音がした。
語り部シルヴァ