『ありがとう、ごめんね』
「...っ」
今回の仕事のアイデアが浮かばずもう三日も経ってしまった。
締切はまだまだ先だが、
三日も無駄に過ごしてしまうと焦燥感が募る。
仕事中はパートナーに部屋に入らないでくれと
伝えている分心配をさせているだろう...
風呂やトイレはさすがに部屋から出るが
それでも話すことは少ない。
何も無いがひたすら頭を捻る。捻り出すものが出てこない。
どうしたものか...
悩んでいるとドアからノックが聞こえてくる。
「ごめん入るね。」
俺の返答を聞かずにパートナーが入ってくる。
「詰まってそうだから、
リラックス出来そうなもの良かったらどうぞ。」
そう言って机の空いたスペースに
いい香りがする紅茶とチョコが置かれた。
普段は仕事の最中にここまですることはない。
それほどパートナーに心配をかけさせていたのか...
「じゃ、お仕事頑張ってね。」
「待ってくれ!」
そう言って部屋を出ようとするパートナーを引き止める。
「ありがとう。それと...心配かけてごめん。」
俺の言葉にパートナーはニコッと笑い
「大丈夫だよ。応援してる。」と応援してくれて部屋を出た。
紅茶の香りとチョコの甘さが脳内をスッキリさせてくれた。
今なら行ける気がする。
滞った分を巻き返して、パートナーにお礼をするんだ。
そう思うとさっきまでの停滞が嘘のように進み出した。
語り部シルヴァ
『部屋の片隅で』
何もすることがなくて床に寝転がり天井を見つめる。
いや、やることやりたいことはあるが
それらがぶつかり合って何もする気力が無い。
ちらっと視界に入ったギターもやりたいことの一つだ。
最初はワクワクしながらいじっていたのに日が経つ事に
触れる時間が減っていき最終的にはケースから
出さなくなってしまった。
ケースも遠目から見てもわかるくらいホコリを被っている。
いつも行動力はなく、やっと動いてもこのザマだ。
重い腰をあげて手をつけてはすぐに冷める...
そんな繰り返しでやる気が微塵も起きなくなる。
...まだ日は昇っている。
時間はまだまだある。
けれど、こうやって堕落して時間を浪費していく。
変わらなきゃ。
わかってはいるはずなのに瞼は重くなり、
世界は真っ暗になった。
語り部シルヴァ
『逆さま』
刹那。時間が止まったようにゆっくりに感じた。
恐怖で顔が歪む君。暗くなり始める真っ赤な空。
なんだ。案外綺麗なもんじゃないか。
だからといってまだ生きたかったなんて思わないけど。
下から上に吹く風は冷たくて乾いている冬の風。
もう体を冷やさないか心配する必要もないって思うと
気が楽だ。
天と地がひっくり返ったかのような世界は
人生の最後にしか見れない絶景だ。
目をつぶれば素敵な華を咲かせれるだろうか。
最後に君の脳裏に焼き付けれるだろうか。
痛いのは一瞬だけ。
そう願いながら目を瞑るとコンセントが抜けた
テレビのように何かがプツンと切れた。
語り部シルヴァ
『眠れないほど』
冬の静けさが異様に気になる。
普段なら嫌という程襲いかかる眠気も今日は非番のようだ。
コーヒーも飲んでない。
いつもの寝る前のルーティンも欠かさなかった。
なのに全く寝れない。
どうしたものか...とりあえず寝れない理由を整理してみた。
まず、仲良くしてくれる相手から遊びの誘いが来たこと。
何して遊ぶか、ご飯はどうするか話が順調に進んだこと。
予定が決まって相手がすごく喜んでくれたこと。
...まあ思い当たることしかない。
にしても前日から浮かれすぎではないだろうか。
あまり人とこういう経験をしてこなかったのもあるが、
なるほど...こういう気持ちになるんだな。
今の自分はすごくだらしない顔になっているかもしれない。
明日はきっと楽しい1日になるだろう。
静かで真っ暗な天井を見上げながら心の奥底にある
暖かい感情がゆっくりと眠気を誘ってくれた。
語り部シルヴァ
『夢と現実』
「いい加減にしろ!
自分が何やったか話せばいいんだ!
さっさと話せ!」
最近よく夢を見る。
今日は刑事さんと取調室で話をしている。
ものすごく怒鳴られていて、よほど自分が
大罪を犯したかを思い知らされる。
でも、僕は夢の中で何をしたんだろうか。
夢の中で自分が何したかなんて覚えてないけど...
ついに感極まった刑事さんが胸ぐらを掴んできた。
やけにリアルな夢だな...
刑事さんの気迫が凄まじい。
でも所詮は夢だ。あーあ、早く覚めて欲しい。
「あの人、今日もだんまりですね。」
「あぁ、検査の結果夢を見すぎて
今この空間を夢だと思い込んでいるらしい。」
語り部シルヴァ