『眠れないほど』
冬の静けさが異様に気になる。
普段なら嫌という程襲いかかる眠気も今日は非番のようだ。
コーヒーも飲んでない。
いつもの寝る前のルーティンも欠かさなかった。
なのに全く寝れない。
どうしたものか...とりあえず寝れない理由を整理してみた。
まず、仲良くしてくれる相手から遊びの誘いが来たこと。
何して遊ぶか、ご飯はどうするか話が順調に進んだこと。
予定が決まって相手がすごく喜んでくれたこと。
...まあ思い当たることしかない。
にしても前日から浮かれすぎではないだろうか。
あまり人とこういう経験をしてこなかったのもあるが、
なるほど...こういう気持ちになるんだな。
今の自分はすごくだらしない顔になっているかもしれない。
明日はきっと楽しい1日になるだろう。
静かで真っ暗な天井を見上げながら心の奥底にある
暖かい感情がゆっくりと眠気を誘ってくれた。
語り部シルヴァ
『夢と現実』
「いい加減にしろ!
自分が何やったか話せばいいんだ!
さっさと話せ!」
最近よく夢を見る。
今日は刑事さんと取調室で話をしている。
ものすごく怒鳴られていて、よほど自分が
大罪を犯したかを思い知らされる。
でも、僕は夢の中で何をしたんだろうか。
夢の中で自分が何したかなんて覚えてないけど...
ついに感極まった刑事さんが胸ぐらを掴んできた。
やけにリアルな夢だな...
刑事さんの気迫が凄まじい。
でも所詮は夢だ。あーあ、早く覚めて欲しい。
「あの人、今日もだんまりですね。」
「あぁ、検査の結果夢を見すぎて
今この空間を夢だと思い込んでいるらしい。」
語り部シルヴァ
『さよならは言わないで』
道中に左右に道が別れてその間に看板が立てられている。
「どうやら、僕らはここまでのようだね。」
看板の行き先を確認した仲間が伸びをしながらつぶやく。
俺たちは目的までの道中が同じで
一時的に仲間になって旅をしていた。
遺跡を巡ったり途中の街で飯を食ったり
パーティメンバーのような仲になった。
これからもっと2人で面白いことと
出会うんじゃないかと内心期待していたが...
俺たちを分ける道がついに来てしまった。
「ここまで長いようであっという間だったね。」
看板の近くで休憩を取りながらだべる。
半年ぐらいだろうか。1年の半分というのは
本当にあっという間だった。
「せっかく仲良くなったのになあ...寂しくなるが
お互いの目的を達成するには仕方ないな。」
「だね。もしかしたらまた出会うかもしれないけど。」
それもそうか。と返しながら空を見上げる。
仲間というのも悪くないかもしれない。
そう思わせてくれるような仲間でよかった。
休憩はあっという間に終わり、出発の時間になった。
「じゃ、お互い頑張ろうか。」
「あぁ、ありがとな。また。」
うん、またね。
手は振り来た道を振り返らず歩き続ける。
またどこかで出会えるだろう。
不思議とそう感じるからさよならは言わなかった。
語り部シルヴァ
『光と闇の狭間で』
冷たい風の感覚はほぼ無く、
汗が自分の輪郭をなぞるように落ちていく。
足の疲れも走っていくうちに地面を踏みしめる感覚しかない。
あと1メートルでも遠くへ走るんだ。
そう思いながら真っ暗な河川敷を走る。走る。
まだ...まだ走れる!もっと、全力で...!
そう自分に言い聞かせて走っていると
セットしていたタイマーが鳴る。
鳴ると同時に走るペースをゆっくり落として足を止める。
熱の篭った息は白くなり空へと溶けていく。
今日も走りきった。体を冷やさないうちに帰ろう。
来た道を戻ろうとすると背中が少し温かくなる。
振り返ると太陽が顔を出してきた。
ずっと暗かった部分をゆっくりと明るくしていく。
...陽の光が冷めようとしている体も温めてくれる。
半身が暖かく、半身が冷たい...
本当は早く帰って体を冷やさないようにしないと
いけないとだけど...
この瞬間が特別に感じて離れたくなかった。
語り部シルヴァ
『距離』
「それじゃあ今日はこの辺で。」
「はい、ありがとうございました!」
「おやすみなさい。」
「おやすみなさい!」
ボイスチャットを切り一息つく。
リアルでは友達のいない僕だがネットだと友達ができた。
同じ趣味を持つ仲間とゲームする日々はとても楽しい。
リアルで友達になれたなら一緒にご飯行ったり
ゲーセンで遊べたりできたのかと考えると
ゲームで繋がれたのは少し残念かもしれない。
電源をオフにしたモニターを眺める。
声は近いし他人以上の距離感なのに、
どうしてこうも遠く感じてしまうんだろう。
もっと...この距離が縮まればいいのにな。
ゲームしてくれるだけありがたい話だなと
自分の中でまとめて寝る準備を始めた。
語り部シルヴァ