『子猫』
グラスを拭きながら時計を見る。
もうすぐやってくるわね。
そう思いながらいつものを準備する。
少し温めたミルクに今日の試作品。
喜んでくれると嬉しいんだけど...
そう思いながら準備を済ませベル付きのドアを見つめる。
少し待つとドアのベルが...
鳴らず下の方でトントンとドアを優しく叩く音が聞こえる。
カウンターを出てドアを開ける。
「いらっしゃい子猫ちゃん。今日も来てくれて嬉しいわぁ。」
ぶかぶかなパーカーを着て鼻を赤くした常連さんはいつもの席につく。
「はい温かいミルクと今日の試作品お口に合うかしら...?」
そう言いながら料理を差し出すとミルクを1口。
ほぅとミルクを飲み目がとろんとしている。
試作品のミニオムライスを1口食べると目をキラキラと輝かせて1口、また1口と頬張る。
この子猫ちゃんはどういう家庭事情かは知らない。
けれどこんな子を見過ごせるほど私は冷たい人じゃない。
それに...子猫ちゃんがお腹いっぱいになって幸せそうな顔を見てしまったからにはその顔を見たくなっちゃうからね。
満足した子猫ちゃんは私に手を振って帰って行った。
また明日も待ってるわ。
そう言いながら手を振り返した。
語り部シルヴァ
『秋風』
目を覚まし飛び跳ねるように起きる。
布団はベッドからずり落ち急いで携帯の時間を確認する。
...遅刻だ。
慌てて準備しようとしたが
一旦落ちついて携帯の画面を確認する。
今日は休みの日だ。
安堵し布団をベッドに戻す。
ご飯の作り置きも掃除も今日はナシでいこう。
寝巻きのままコーヒーでも飲もう。
朝の日差しを浴びてゴロゴロしよう。
まずはコーヒー。
ちょっと余裕ある人のように窓を開けて日差しと風を浴びる。
少し暖かい空に全身を冷たく撫でる風が心地よい。
コーヒーの苦味がぼーっとしていた頭を覚ましてくれる。
カップを置いて思い切り伸びをする。
さあ、今日はいい日になりそうだ
語り部シルヴァ
『また会いましょう』
ポストを除くと見慣れた封筒が1枚。
すぐさま回収して家に入る。
手洗いうがいを済ませ自分の部屋に入りカバンを投げて
封筒を優しく開けて手紙を読む。
寒くなってきたこと。
けれど朝の散歩で日の出が見れるようになったこと。
風邪をひかないように。
優しい字で書かれた手紙は
心配してくれる気持ちが伝わってくる。
日常的な内容が多めで相手がどんな生活を
送っているのかが想像できるくらいだ。
そして最後に...
"また会いましょう。"
と書かれている。
早速引き出しから紙とペンを取り出し
内容を考えつつペンを進める。
早起きできるのは羨ましい。
こちらは最近雨が続いているので雨音を楽しんでいる。
そっちこそ風邪をひかないようしっかりと寝てくださいね。
... "また会いましょう。"
実際に会ってはいないけど、私たちの挨拶のようなもの。
相手より字は汚いけど、気持ちが伝わっているといいな...
手紙を封筒に入れて...住所を書いて完成。
明日出しに行こう。さて、次はどんな返事が返ってくるかな。
「また会いましょう...」
ボソッと呟いた自分の言葉に思わず笑みが零れた。
語り部シルヴァ
『スリル』
沈黙の空間が続く...
一手間違えれば全てが終わる。
緊張して手が震える。
冷静に...冷静に...そんな思いをおしのけ
心臓は高鳴る。
こんな状況を楽しめるやつの気がしれない...
でも...カードは揃った...
ここで出るか...それとも...
いや、出る!
震える手でカードを出す。
「フルハウス!」
友人たちは...出せるカードは無さそうだ。
「お前の一人勝ちかよ!」「ずりー!」
「はいはい。約束でしょ?こいつらは貰うからね。」
深夜テンションで始まったポーカーがすごく楽しい。
ただ...年に1回ぐらいにしとかないとね。
どハマりしそうなスリルの味を
知っちゃったからには気をつけないとだから...
語り部シルヴァ
『飛べない翼』
窓から空を眺めているとガラガラした鳴き声が聞こえた。
友人が窓越しにやってきて話しかける。
「お前、また空を眺めてるのか。」
「うん。君や他の子が空を飛んでるのが羨ましくって...」
「そんなに飛びたいなら飛べばいいだろ。」
「私の"これ"は飛ぶためにはついてないみたい。
それに...こんな狭い檻の中じゃ
羽を伸ばすことすらできない。」
「まだご飯に困らず寝る余裕があるから
俺もお前が羨ましいけどな。」
飯を探してくる。じゃあな。
とガラガラ声の友人は去っていった。
私は...。
普段ヒトがご飯を出してくる檻の入口をガジガジと噛む。
けれど檻はビクともしない。
...私はやっぱり飛べないんだ。
この小さな檻で永遠に生きるんだろう...
窓からさす陽の光はどうしても温もりが感じられなかった。
語り部シルヴァ