きっと明日も
少し早くなった夕暮れは帰る時に
素敵な夕焼け空を見せてくれる。
部活も試合を終えて卒業の形で退部。
おかげで学校が終わり次第彼女と帰る時間が
毎日できるようになった。
今までは部活があったから一緒に帰れるなんて
夢にも思ってなかった。
ただ僕は電車通学。
だから彼女を家に送ってそこから帰る。
彼女の日常の景色に僕がいるのはなんだか嬉しい。
彼女が普段から見る景色、踏みしめてきた道。
帰り道を理解する度に彼女をまたひとつ理解した気分になる。
そんなことを思いながら彼女と話をしていると
あっという間に着いてしまった。
寂しいが...また明日だ。
「今日もありがとう。また明日だね。」
「だね。また明日。」
彼女が家に入るのを確認して帰路を目指す。
さっきまで歩いた道を引き返すこの寂しさは秋のせい。
きっと明日も、君のおかげで素敵な1日になるよね。
そう考えると帰り道が少し明るくなった気がした。
語り部シルヴァ
静寂に包まれた部屋
「これで全部です。ではお願いします。」
頭を下げながら挨拶をする。
「かしこまりました!では現地で!」
力強い元気な声は大きいトラックに乗って走り出した。
さて...と部屋を振り返る。
ベッドや冷蔵庫、テレビ...自分の持ち物が
全て無くなったこの部屋はこんなにも広かったものか...
ここに来た時は広く自分好みの部屋に変えようと
意気込んでいた事を思い出した。
結局掃除が面倒で模様替えをする体力が無く
あんまり出来なかった。
次の部屋では...と思ったが
また同じことになってしまいそうだ。
ここで数年間過ごした思い出を思い出しながら
部屋の中をゆっくりと歩き、眺める。
思い出の中は賑やかだが、何も無い今はすごく静かだ。
...全部...思い出になってしまったなあ...。
少しセンチメンタルに浸りたいところだが、
そろそろ出発しないと荷物を待たせることになってしまう。
寂しいが...さようならだ。玄関でもう一度部屋の方を向き、
「ありがとうございました。」と
深く一礼しながら部屋に伝える。
お世話になりました。
それじゃあ、行ってきます。
語り部シルヴァ
別れ際に
「これでボクたちは恋人でも友達でもない、赤の他人だ。」
夕焼け空も暗くなり始めた空のように
君の顔に影ができ始める。
俺たちは別れを切り出すことになった。
高校の頃から付き合い始めたが、大学生になり
お互い大人になるにつれて価値観や考え方がズレてきた。
俺たちが未熟だったのもあるが、大人に近づくたび
お互いの距離が離れるなんて思わなかった。
すぐに諦めた訳じゃない。
あーだこーだと試行錯誤した結果今に至る。
色々と頑張ったのに大切な人を幸せにできなかった。
それがお互いにとても悔しかった。
ふたりが別れを選択した時なんて目が腫れるほど泣いた。
もう完全に夜が来る。
ここに来るのも今日で最後だ。
最後のサヨナラを伝えるために帰る前に振り返る。
笑顔の君の腫れた目と流れる涙は逢魔が時の世界じゃ
隠しきれていなかった。
「じゃあね。今までありがとう!」
それでもいつもの口調の君を見て伝えるはずのサヨナラは
震え声になってしまった。
最後の最後の別れ際に、俺は呪いを受けることになった。
これから...一生忘れることのない呪いだ。
語り部シルヴァ
通り雨
最近、不思議なアプリを手に入れた。
偏頭痛がキツい時があって、友人に話すと天気予報アプリを
入れるといいと勧められ入れることにした。
有名な会社の天気予報アプリじゃなく、
聞いた事のない会社名。
気にはなったが、偏頭痛に関係している低気圧が来ることを
通知してくれると書いていたのでそこを信頼した。
結果的には大成功だった。低気圧が来る30分前に
教えてくれるので事前に薬を飲めばやり過ごせれるし、
どれほどの強さかも教えてくれる。
それに雨が降ったり晴れたりの予報もかなりの的中率で
驚いている。
今日も帰り道このアプリに頼りながら帰る予定だ。
最寄り駅までのルートを調べていると、
天気予報アプリから通知が来た。
"数秒後、通り雨に注意してください"
通り雨...?
そう思った矢先、右斜め前から雨が迫ってきた。
雨がまるで生きているかのように斜め前から
まっすぐ通過して行った。
駅を通過するように通って行った雨の後を眺めながら
呆気に囚われていた。
スマホには"通り雨が通り過ぎ去りました。"
と通知が来ていた。
語り部シルヴァ
秋🍁
優しくなった陽の光、早くなった日没、乾いた涼しい風。
もう秋だということ嫌でも知らされる。
つい先週まで日中はクーラー無しだと
寝苦しかったのにこうも変わるのか...
ベランダで夜風に吹かれながらタバコを吸う。
夏はタバコの火が熱くて堪らなかったが、
これから温かく感じるのだろう。
俺はこの季節が好きだ。
ん夏よりも涼しく冬より暖かい。
こんなにも過ごしやすいのに期間が短いのが残念だ。
秋の彩りある季節も美味しい旬の食べ物も
あっという間で寂しくなる。
だからこそこの季節のことを大切にしたい。
タバコも吸い終わったからベランダに戻ろうとした。
腕に違和感を覚え見てみると蚊に数カ所噛まれていた、
...これさえなければずっと秋が続けばいいのになと
思いながら痒くなった腕をかき部屋に戻った。
語り部シルヴァ