夜の海
波が行ったり来たりしている。
波の端でザブン、ザバァと音を立てる。
海面付近の砂はしっとりと湿っていて歩く度に
ジャグジャグと音がする。
静かな夜に音はこれだけ。
こんなド田舎な場所ではいつもの事だ。
実家に帰省したら楽しみはこれくらいだ。
静かな夜に海の音を聴く。
大学生なって都会で一人暮らしを始めたが、
18年もの間よくこんな何も無い場所で生きてきたものだ。
おかげで都会じゃ当たり前なことを学ぶのに
とても時間を食った。
満開の星空に漣の音だけが響く。
朝とは違う顔を見せる夜の海は私のお気に入り。
暗くて少し不気味だけど、
辛いこととかなんでも静かに飲みこんでくれそうだから。
語り部シルヴァ
自転車に乗って。
電動自転車よりも普通のママチャリの方が好きだ。
自分の足で漕いだ分進んでくれるのがなんかいい。
もちろん足が疲れるけど、
その疲れがちゃんと漕いでいるんだと感じさせる。
遠くに行けば行くほど疲れは出る。
でも普段バイクを乗ってる自分からすると
普段行かない場所を自転車で行くのは小さな冒険のようだ。
徒歩でもバイクでも得られない何かが自転車にはある。
夏はさすがに暑すぎて自転車を使うと体力が
すぐに無くなってしまうからもう少し
気温が落ち着いてからにしよう。
秋はスポーツの秋なんて言うのだから
自転車に乗るにはうってつけだろう。
さあ、秋になる前に自転車に乗ってどこに行こうか
決めておこうか。
語り部シルヴァ
心の健康
心ってのは1番ケアが大変だと思う。
頭が痛いなら頭痛薬、風邪を引いたなら風邪薬、
胃が痛むなら胃薬...
なら心が痛い時は?
心が痛いのは心臓?それとも肺?
そんな現実的なものじゃない。
好きな人に振られ、愛するペットとの別れ、上司に叱責され...
心の痛みっていうのはあるはずのない心って場所が色んな原因で苦しいことなんだ。
そしてそれを解明して、心を支えていくっていうのがカウンセラーのお仕事。
さっき言った質問の答えがこれさ。
心が痛いときは、僕たちが君の心の薬になる。
もちろん君はこういう場所が初めてで、他人に話すことは抵抗あるかもしれない。
それでも君が自分の意思でここに来れたのなら、ダメ元で話してみてもいいんじゃないかな?
そう言われて少し考えた。
すると僕の口は自然と開き、あるがままを話し始めた。
話を進めると、涙が出てきた。
先生に言われて気づいたんだ。
僕は誰かに助けて欲しかったんだ。
語り部シルヴァ
麦わら帽子
背の高いひまわり畑の中、
ほぼ毎日麦わら帽子を被った君の背を追いかけていた。
背中をタッチすれば麦わら帽子をもらい、
今度は僕が追いかけられる番。
そうやって小さい頃は君と遊んだ。
ひまわり畑と同じくらいの背になった頃、
僕は麦わら帽子を被らなくなった。
麦わら帽子は君の物になり、
純白のワンピースととても似合う。
ひまわりより、太陽より眩しい君の笑顔は今でも覚えている。
ひまわり畑よりも背が高くなった今、
君はあの麦わら帽子を被らなくなった。
新しい麦わら帽子を被り純白のワンピースを着て笑う
その姿は昔と変わらない。
昔の麦わら帽子は...
「パパー!ママー!」
ひまわり畑より背の低いところになった。
太陽より眩しい笑顔が僕の隣で輝く。
2人もいると眩しいが、それが幸せなのだろう。
語り部シルヴァ
終点
うっかり居眠りをしていたようだ。
一定のリズムで刻まれる線路の揺れ、
程よく効いている冷房。
電車でここまで深く眠ったことは無かっただろう。
ヨダレを垂らしてないことを確認し、
内心ホッとして周囲を確認する。
ご老人の方々が椅子に座って静かに待っている。
ちらほらとご老人より若い人達はいるものの、
視界に1人いるかいないかの人数だ。
今どこだろうか、外の景色は車内が反射してよく見えない。
車両のドア付近の電子掲示板...は付いていないタイプだった。
スマホで確認...しようにも圏外で確認できなかった。
そのまま待っていると、車掌のアナウンスが鳴る。
"皆様、お待たせ致しました。『終点、終点』です。
お忘れ物のないようにお降り下さい。"
その言葉にどこか引っかかりつつも
ご老人の方々について行く。
車両の外の景色は明らかに現実味のない世界だった。
今まで見た事のないような深い青色の空、真赤な太陽。
慌てて車掌に尋ねてみる。
「あ、あの!ここはどこですか!?」
「お客様、ここは『終点』ですよ。」
「終点でも駅名がありますよね!?何駅なんですか!」
「ですから、ここは『終点』という駅です。
他のお客様が通られたように、
あちらにまっすぐお進み下さい。」
そう言いつつ電車は元きたであろう道を引き返してしまった。
終点...ゴール...終わりの場所...
...!
その時、僕はこの電車に乗る前、
事故に会ったことを思い出した。
語り部シルヴァ