麦わら帽子
背の高いひまわり畑の中、
ほぼ毎日麦わら帽子を被った君の背を追いかけていた。
背中をタッチすれば麦わら帽子をもらい、
今度は僕が追いかけられる番。
そうやって小さい頃は君と遊んだ。
ひまわり畑と同じくらいの背になった頃、
僕は麦わら帽子を被らなくなった。
麦わら帽子は君の物になり、
純白のワンピースととても似合う。
ひまわりより、太陽より眩しい君の笑顔は今でも覚えている。
ひまわり畑よりも背が高くなった今、
君はあの麦わら帽子を被らなくなった。
新しい麦わら帽子を被り純白のワンピースを着て笑う
その姿は昔と変わらない。
昔の麦わら帽子は...
「パパー!ママー!」
ひまわり畑より背の低いところになった。
太陽より眩しい笑顔が僕の隣で輝く。
2人もいると眩しいが、それが幸せなのだろう。
語り部シルヴァ
終点
うっかり居眠りをしていたようだ。
一定のリズムで刻まれる線路の揺れ、
程よく効いている冷房。
電車でここまで深く眠ったことは無かっただろう。
ヨダレを垂らしてないことを確認し、
内心ホッとして周囲を確認する。
ご老人の方々が椅子に座って静かに待っている。
ちらほらとご老人より若い人達はいるものの、
視界に1人いるかいないかの人数だ。
今どこだろうか、外の景色は車内が反射してよく見えない。
車両のドア付近の電子掲示板...は付いていないタイプだった。
スマホで確認...しようにも圏外で確認できなかった。
そのまま待っていると、車掌のアナウンスが鳴る。
"皆様、お待たせ致しました。『終点、終点』です。
お忘れ物のないようにお降り下さい。"
その言葉にどこか引っかかりつつも
ご老人の方々について行く。
車両の外の景色は明らかに現実味のない世界だった。
今まで見た事のないような深い青色の空、真赤な太陽。
慌てて車掌に尋ねてみる。
「あ、あの!ここはどこですか!?」
「お客様、ここは『終点』ですよ。」
「終点でも駅名がありますよね!?何駅なんですか!」
「ですから、ここは『終点』という駅です。
他のお客様が通られたように、
あちらにまっすぐお進み下さい。」
そう言いつつ電車は元きたであろう道を引き返してしまった。
終点...ゴール...終わりの場所...
...!
その時、僕はこの電車に乗る前、
事故に会ったことを思い出した。
語り部シルヴァ
上手くいかなくたっていい
彼女は過去の事故で笑わなくなった。
幼馴染の僕は、無表情になった彼女に
「いつか君の笑顔を取り戻してみせる。」
と誓った。
くすぐり、ドッキリ、美味しい食べ物、コメディ映画...
色々試してみたが、今のところは全然ダメだ。
次の案を考えながらの帰り道?、彼女が口を開く。
「私のせいで...ごめん。無理しなくていいよ?
君には君の人生があるんだから...。」
彼女自身も感情を取り戻したいと思う一方、
上手くいかない現状に頭を悩ませている。
それに僕が付きっきりで問題を解決しようとしている姿に
罪悪感を抱えているらしい。
彼女自身どう思ってるかはあまり聞かない方がいいと思い
聞かなかったが、そう思っているのなら...
「僕が君の感情を取り戻したいのは君のため。
僕がそうしたいから好きに無理してるだけだよ。
上手くいかなくたっていいじゃん。
まだまだ色んなこと試してみようよ!」
両手を広げ彼女にそう伝える。
彼女はありがとうと言ったが変わらず無表情だった。
でも、声はさっきよりも冷たくなく、
優しくほほ笑みかけるような声色だった。
語り部シルヴァ
蝶よ花よ。
「おかーさん!おかーさん!」
どたどたと元気な足音と一緒に
大きな声でこちらに近づいてくる。
「見て見て!」
見せてきたのは用紙に描いたなにか。
肌色、黒色...そしてお気に入りのエプロンとスーツ。
一瞬何か分からなかったが、
どうやら私たちを描いてくれたようだ。
「これもしかして...私たち?すごーい!上手に描けたね!」
頭をわしゃわしゃと撫でるとえへへと笑う。
とても可愛らしい...
絵の才能はこれからきっと開花する。
「こんな素敵な絵を見せてくれてありがとう!」
「どういたしまして!」
絵を私に渡して元気な声は部屋の奥へと
消えていってしまった。
お父さんが帰ってきたら自慢しよう。
貰った絵を改めて見る。
絵から伝わる幸せが輝いていた。
語り部シルヴァ
太陽
星が輝くの太陽があるからだ。
人の心が輝くのも太陽があるからだ。
おっと、この太陽は空にある太陽のことじゃない。
隣にいる大切な人のことだ。
我々はみな、星なんだ。
小さくも歪な形をしても、色が無くても...
もちろんひとりだと輝きが小さくて綺麗に輝けない。
でもそんな星を輝かせてくれるのが太陽という存在。
親でも友人でも恋人でも...
人の心にそれぞれ太陽は必ず存在している。
例え心がだろうが、曇りだろうが関係ない。
隣に太陽がいるだけで晴れるんだ。
私はあなたの太陽になりたい。
ここまで言って手を差し伸べる。
傷だらけの君は何それと笑いながら私の手を取った。
私がいる限りその星の輝きを止めさせやしない。
語り部シルヴァ