語り部シルヴァ

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8/11/2024, 2:20:32 AM

終点

うっかり居眠りをしていたようだ。
一定のリズムで刻まれる線路の揺れ、
程よく効いている冷房。
電車でここまで深く眠ったことは無かっただろう。

ヨダレを垂らしてないことを確認し、
内心ホッとして周囲を確認する。
ご老人の方々が椅子に座って静かに待っている。
ちらほらとご老人より若い人達はいるものの、
視界に1人いるかいないかの人数だ。

今どこだろうか、外の景色は車内が反射してよく見えない。
車両のドア付近の電子掲示板...は付いていないタイプだった。
スマホで確認...しようにも圏外で確認できなかった。

そのまま待っていると、車掌のアナウンスが鳴る。
"皆様、お待たせ致しました。『終点、終点』です。
お忘れ物のないようにお降り下さい。"

その言葉にどこか引っかかりつつも
ご老人の方々について行く。
車両の外の景色は明らかに現実味のない世界だった。
今まで見た事のないような深い青色の空、真赤な太陽。

慌てて車掌に尋ねてみる。

「あ、あの!ここはどこですか!?」
「お客様、ここは『終点』ですよ。」
「終点でも駅名がありますよね!?何駅なんですか!」
「ですから、ここは『終点』という駅です。
他のお客様が通られたように、
あちらにまっすぐお進み下さい。」

そう言いつつ電車は元きたであろう道を引き返してしまった。
終点...ゴール...終わりの場所...
...!
その時、僕はこの電車に乗る前、
事故に会ったことを思い出した。

語り部シルヴァ

8/10/2024, 12:53:57 AM

上手くいかなくたっていい

彼女は過去の事故で笑わなくなった。
幼馴染の僕は、無表情になった彼女に
「いつか君の笑顔を取り戻してみせる。」
と誓った。

くすぐり、ドッキリ、美味しい食べ物、コメディ映画...
色々試してみたが、今のところは全然ダメだ。

次の案を考えながらの帰り道?、彼女が口を開く。
「私のせいで...ごめん。無理しなくていいよ?
君には君の人生があるんだから...。」

彼女自身も感情を取り戻したいと思う一方、
上手くいかない現状に頭を悩ませている。
それに僕が付きっきりで問題を解決しようとしている姿に
罪悪感を抱えているらしい。

彼女自身どう思ってるかはあまり聞かない方がいいと思い
聞かなかったが、そう思っているのなら...

「僕が君の感情を取り戻したいのは君のため。
僕がそうしたいから好きに無理してるだけだよ。
上手くいかなくたっていいじゃん。
まだまだ色んなこと試してみようよ!」

両手を広げ彼女にそう伝える。
彼女はありがとうと言ったが変わらず無表情だった。
でも、声はさっきよりも冷たくなく、
優しくほほ笑みかけるような声色だった。

語り部シルヴァ

8/8/2024, 10:43:45 AM

蝶よ花よ。

「おかーさん!おかーさん!」
どたどたと元気な足音と一緒に
大きな声でこちらに近づいてくる。

「見て見て!」
見せてきたのは用紙に描いたなにか。
肌色、黒色...そしてお気に入りのエプロンとスーツ。
一瞬何か分からなかったが、
どうやら私たちを描いてくれたようだ。

「これもしかして...私たち?すごーい!上手に描けたね!」
頭をわしゃわしゃと撫でるとえへへと笑う。
とても可愛らしい...
絵の才能はこれからきっと開花する。

「こんな素敵な絵を見せてくれてありがとう!」
「どういたしまして!」
絵を私に渡して元気な声は部屋の奥へと
消えていってしまった。

お父さんが帰ってきたら自慢しよう。
貰った絵を改めて見る。

絵から伝わる幸せが輝いていた。

語り部シルヴァ

8/7/2024, 3:13:55 AM

太陽

星が輝くの太陽があるからだ。
人の心が輝くのも太陽があるからだ。

おっと、この太陽は空にある太陽のことじゃない。
隣にいる大切な人のことだ。
我々はみな、星なんだ。
小さくも歪な形をしても、色が無くても...
もちろんひとりだと輝きが小さくて綺麗に輝けない。

でもそんな星を輝かせてくれるのが太陽という存在。
親でも友人でも恋人でも...
人の心にそれぞれ太陽は必ず存在している。
例え心がだろうが、曇りだろうが関係ない。
隣に太陽がいるだけで晴れるんだ。

私はあなたの太陽になりたい。

ここまで言って手を差し伸べる。
傷だらけの君は何それと笑いながら私の手を取った。
私がいる限りその星の輝きを止めさせやしない。

語り部シルヴァ

8/5/2024, 4:14:00 AM

つまらないことでも

基本的に自分のしたいこと以外に興味を持たない友人がいる。
ずっと本を読んでて、僕らがおすすめしたもの全部
「興味無い。」の一点張りで返される。

だがお願いされると断れないようで、
遊びに出かける時に誘うと「仕方ないな」と
少し呆れながらも着いてくてくれる。
驚くことに、お誘いを断らないのは僕だけだという。

今日も映画を見に来たが、1人だと行きづらかったので
誘ってみるとまたかと言いながらも来てくれた。
チケット代を払おうとすると、「そういうのはいいから。」
と自分で払った。

映画はすごく良かった。
沢山語りたいところだが友人は興味のないものを
2時間も見せられたのだ。
まずはお礼を言わないと...

「今日はありがとう。不安だったけど楽しめたよ!
興味なかったのにごめんね」

「別に...」と友人は答える。
いつも通りの友人だと思い歩き始めようとすると
友人が口を開く。

「ボクは確かに人から勧められたものには興味が無い。
だけど、映画とか普段から誘ってくれる人のは少しは
興味を持つようにしている。
どれだけつまらないことでも、
君のような人と共感できるのは嬉しいから...。」

さっき見た映画の告白シーンが頭によぎる。
僕はまだ映画の中なのだろうか。

語り部シルヴァ

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