お題:夏
白い煌めきが体温を奪う。そして突然また体温を与える。それが夏。
北の海に行ったときに、綺麗だが底は到底見えない深い青で、太陽を吸った白い光が泳いでいたことに目眩がするほど感激した記憶がある。
金欠だし、もうしばらくそういうのは行かなくなったけど、夏になると煌めきに思いを馳せて少し冷たくなる。
お題:隠された真実
真実の甘い味を求めて、苦い薬を飲んだことがあるだろうか。大抵真実などそんなものだ。
アダムとイヴが食べた果実もきっとそんな味。
大人が閉ざした真実が、気になって仕方なかったのに、欲に落ちてから知ってしまってはあの頃に戻りたいとさえ思う。閉ざす側になればそれも忘れる。
執着だけが残った私たちもアダムであり、イヴである。
イチヂクの葉で口を閉ざす私たちの前を走る子供の、それはもう自由なことよ!
お題:風鈴の音
帰り道にある、全く知らない人の家に風鈴がある。
二階。端っこに。
その家は古く、日本らしい古風で小さな家であった。
私はその家の前を通ると風鈴の音が微かに聞こえるのが好きだった。
カランとビー玉が転がるようで、繊細な美しさを帯びていて。飴細工のようだとか、今なら言える。
幼い頃は憧れていたもので、親にねだるほどではないためそこを通った時に聞いて満足していた。もう少し大きくなって、しばらく使っていなかったその道も帰り道のひとつになったから、孤独な私を癒す一部であった。
ただ、いっときから年中置いてあったもので、風物詩なんてないけれど。
去年から、音がしなくなった。
恐らく家主がいなくなったのだろう。年中置いてあるのもそのせいだったわけだ。私から手放すのではなく、あちらから離れられてしまうと苦しい。
その土地は更地となり、私は学校に馴染み始め、幼い頃の私だけが、寂しいと思った。
お題:心だけ、逃避行
遠く澄んだサンプル画像みたいな空のふちは少し白さを帯びていて、そこに酷く憧れてしまった。
その上を見上げれば恐ろしく深い青で、綺麗なのに底の見えない海のようで。
そんな恐ろしいところ飛び込めるわけがなくて。
ずっとは陸で生きていけない。どうせ明日からまた、海に沈まないといけない。
優雅に泳いだり、鳥になって飛ぶ人には惨めさがなくて羨ましい。その勇気と術は私にない。
小さい頃、周りよりとろくて泳げなくて焦って、時間が流れるのをただ待っていた夏のようだ。
空と海の色は同じだ。海の深い青にも、呑まれたくはない。
その中で沈んでいった魚のおかげで、海の香りは好き。
私は沈むと怖いから、割と長い間、空を見ていたい。
お題:冒険
プールサイドほどに輝き、豆腐のように白く。
でもきっと、小さな背は仕舞い込むのですね。
7つと言わず転び、それでも独り、立ち上がれるほど強くなった貴方の、目頭に浮かぶ涙を、私は一度も見逃しはしない。
私ら、どうせ良い子ちゃんなんだから、逃げ回るその一歩すら踏み出せないのですよね。
だから少しだけ反抗して、今日は帰り道を変えませんか。