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お題:風鈴の音

帰り道にある、全く知らない人の家に風鈴がある。
二階。端っこに。
その家は古く、日本らしい古風で小さな家であった。
私はその家の前を通ると風鈴の音が微かに聞こえるのが好きだった。
カランとビー玉が転がるようで、繊細な美しさを帯びていて。飴細工のようだとか、今なら言える。
幼い頃は憧れていたもので、親にねだるほどではないためそこを通った時に聞いて満足していた。もう少し大きくなって、しばらく使っていなかったその道も帰り道のひとつになったから、孤独な私を癒す一部であった。
ただ、いっときから年中置いてあったもので、風物詩なんてないけれど。

去年から、音がしなくなった。
恐らく家主がいなくなったのだろう。年中置いてあるのもそのせいだったわけだ。私から手放すのではなく、あちらから離れられてしまうと苦しい。
その土地は更地となり、私は学校に馴染み始め、幼い頃の私だけが、寂しいと思った。

7/12/2025, 2:09:05 PM