→短編・怖いヒト
君が僕の部屋に巧妙に隠した口紅を、彼女が見つけたとき、その姑息なやり口に怒りとか呆れとかを感じる前に、「終わったな」と。
完全に頭がスンと冷えた。
君は、迷惑な人だった。
僕たちのあいだには、何の関係もない。
君は、ある日突然に僕のことを好きだと何度も繰り返し、迫ってくるようになった。
警察に相談したこともあった。君はそのたびに何度も反省を口にして泣いた。もうしない、追っかけたりしない、付きまとわない。しかし、その約束が守られることはなかった。君はケロッとした顔で、翌日から同じことを繰り返した。
僕は君が何者なのか全く知らない。僕の個人情報をどうやって手に入れたのかもわからない。
オートロック式のマンションの5階の部屋に、君はどうやって忍び込んたのだろう?
僕ではなく、あえて彼女に見つけさせるために、口紅を隠した君が、僕は心底恐ろしい。
とにかく、もう嫌だ。解放されたい。
僕は、引っ越ししようと心に決めた。
テーマ; 君が隠した鍵
→日記
仮に、時間を自分の中に留めたとする。どうなるだろう?
1日を秒に換算すると、(1分60秒、1時間60分、1日24時間。)60×60×24=86400秒。
たった1日が、86400秒! きっとすぐに身体は時間でいっぱいになって腫れ上がり……、バチン! 空気入れすぎた風船と同じ運命をたどるのではないだろうか。
時間を手元に置くことはできないので、文字でと網を作って、エイヤ!と投げうち絡め取る。
手放した時間を日記に書き綴ることについて、そんな風にイメージをしながら、今日の日記を書いた。
テーマ; 手放した時間
→秋と冬の間に、作ろう。
この時期になると、
脳裏に特別な紅が浮かぶので、
果物屋さんに駆け込んで、
つややかで、
丸い、
林檎、
紅玉、
実の詰まった硬い果実、
ゴロゴロ刻んで、
キャラメリゼ、
型に詰めて、
パイ皮で覆って、
オーブンで焼いて、
クルッとひっくり返して、
タルト・タタン、
いっちょ上がり!
――さぁ、召し上がれ。
テーマ; 紅の記憶
→夢
スーバーで夢の切り落としを買った。今日の広告の品で、すんげぇお買い得だった。
本当は、切り落としじゃなくて、一本丸ごと食べてみたいけど、お財布事情が……。だって、高級食品だもん。
一本モノなら、夢を全編丸ごと味わえるんだけどねぇ〜。ま、切り落としは、切り落としで色々な夢の断片を食べれるもん。これはこれで贅沢だ。
さてさて、どうやって食べよう。
スタンダードに網焼きにして、夢の脂に舌鼓? それとも、最近流行りの蒸し器調理? ふわふわ蒸気に投影される夢の香気! そ、それとも、禁断の生で行っちゃう? ダイレクトに誰かの夢を―って! いやぁ〜、それは玄人すぎだよなぁ〜。
うわぁ~、口の中によだれがぁ……――
――という夢を、断片的に覚えている。
テーマ; 夢の断片
→見えない未来へ物申す。
何処までかまってちゃんやねん。
ちょっとは歩み寄って来いや!
チラリズムとか、あざといねん。
見える努力しろや!!
(報われない努力を嘆いてみる停滞者)
テーマ; 見えない未来へ