→ディスってませんよ。
落ち着いた店内を、滑るようにやって来たホールスタッフが、舞い踊るような優雅な所作で、私の前に大きな皿を置いた。
桃色のお肉が、こじんまりと勿体ぶって盛り付けられている。
「こちらがメインの『シェフおすすめ、ヤマウズラのロースト、山々を吹き抜ける風(ふう)』でございます」
おぉう! 一回、聞いてみたかった料理名! 〜〜風! 海賊風とか、山賊風とか―って! 私のたとえ、荒々しいな。もっと穏やかに、春風の戯れ風、とか??
まぁいいや、とにかく、夢だったんだ。シェフのイマジネーションが名付けられてる料理を食べるのが!
いいよね〜、何かよくわからんマンションのキャッチコピーみたいで。ワンランク上のアーバンリラクゼーション、みたいな。
いやいや、ディスってんじゃないよ。むしろリスペクトしてるんだよ。
いや、本当に。
テーマ; 吹き抜ける風
→新商品のご案内❣
『黒歴史ランタン』
心に照射。
驚くほどの高輝度。
あなたの記憶の影をクッキリしっかり心に刻みます!
テーマ; 記憶のランタン
→こんな日も、ある。
冬の始まりは、
1年の総決算と新たな年を迎える、
それらの準備で気忙しい。
大掃除やら、年賀状やらが、
ちらちら顔をのぞかせ始める。
億劫だなと思うけれど、
何もしないのも気持ちが悪い。
―ってなことで、
鈍い頭にカツいれて、
重い腰を上げることになる。
唯一ワクワクで励むのは、
来年の手帖づくり。
来年の手帖は、
Leataiという台湾メーカーのもの。
手帖カバーが、ちょっとゴツゴツした紙製。
小さな池を上から覗いたように金魚が泳ぐイラスト。
可愛いんです。
すんげぇ可愛いんです。
しかもノートの書き心地が素晴らしい。
この手帖に出会えてよかった。
えぇ、えぇ、自慢です。
これは自慢ですヨ。
たまにはいいじゃないですかぁ~。
テーマ; 冬へ
→砂漠の月夜
普段、月の恩恵なんて感じたことなくて。
そもそも、月がこんなに明るいことも知らなかった。
新婚旅行に、サハラ砂漠を選んで正解だった。
サハラ砂漠の真ん中でキャンプ。
とても寒くて、とても静かで、とても暗い。
君に、月のスポットライトがあたる。
僕は、その眩しさに目を細めた。
テーマ; 君を照らす月
→甘えか、それとも疾病か? 脳ミソを洗いたい。
「今は休養を一番に……――」
心療内科で一番よく言われる言葉が、呪いのように頭を巡っている。
だから、平日の日中に散歩をしている。
何もしてないのに、何もしたくなかった。
小学校の脇を通った。音楽室からピアノに合わせた合唱が聴こえてくる。日常を生きることのできる小学生に嫉妬した。
街路樹の木陰が、地面に揺れる。
曖昧な輪郭の木漏れ日の跡が、わなわな動く。
ぼんやりとその陰の動きを追っていると、吐き気がしてきた。
もう無理だ。散歩は終わりだ。
家に引き上げる。
蛇口をひねってコップに水を入れる。
飲む前に、ベッドに倒れ込んだ。
何もない一日が終わる。
テーマ; 木漏れ日の跡