→短編・怖いヒト
君が僕の部屋に巧妙に隠した口紅を、彼女が見つけたとき、その姑息なやり口に怒りとか呆れとかを感じる前に、「終わったな」と。
完全に頭がスンと冷えた。
君は、迷惑な人だった。
僕たちのあいだには、何の関係もない。
君は、ある日突然に僕のことを好きだと何度も繰り返し、迫ってくるようになった。
警察に相談したこともあった。君はそのたびに何度も反省を口にして泣いた。もうしない、追っかけたりしない、付きまとわない。しかし、その約束が守られることはなかった。君はケロッとした顔で、翌日から同じことを繰り返した。
僕は君が何者なのか全く知らない。僕の個人情報をどうやって手に入れたのかもわからない。
オートロック式のマンションの5階の部屋に、君はどうやって忍び込んたのだろう?
僕ではなく、あえて彼女に見つけさせるために、口紅を隠した君が、僕は心底恐ろしい。
とにかく、もう嫌だ。解放されたい。
僕は、引っ越ししようと心に決めた。
テーマ; 君が隠した鍵
11/24/2025, 2:09:05 PM