一尾(いっぽ)in 仮住まい

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4/25/2025, 2:46:35 PM

→短編・温度差

「今から、こっちに来ない?」
 彼は電話向こうの恋人に誘いかけた。行きつけの飲み屋に誘ったのだ。金曜日の夜、そのまま彼の部屋に泊まってもらおうとそんな皮算用込みである。
 彼女の返事は芳しくない。「えー?」や「そうだなぁ」と煮え切らない回答を繰り返す。
 それでも彼は楽しかった。彼女との何でもない会話に心が弾む。打ち返す波と戯れるような軽やかな気分は、酒に酔っているからではない。
 彼女に恋しているからだ。

「会いに来てほしいなぁ」
 彼氏から飲み屋に誘われた彼女は、しばらくの迷うフリのあと、逆に誘いかける策に打って出た。金曜日の夜である。他人のいる飲み屋ではなく、2人だけの空間でまったりしたかった。
 電話口の彼氏は、彼女の誘いに「ホントにいいの?」と遠慮しながらもノリノリの口調だ。
 彼が愛おしい。その下心すらカワイイ。何かが彼女の心をキュッと掴む。彼女はその正体を知っている。それは、深い愛情。深海をゆく潜水艇のような高揚感。
 彼女は彼を心から愛している。

 彼が彼女の部屋へとやって来た。2人で映画を見る。
「likeと loveは違うのよ 」
 そんなセリフが字幕で流れる。
 2人はそのセリフを気に留めない。
 2人は一心同体だと思い込んでいる。

テーマ; 「こっちに恋」「愛にきて」

4/25/2025, 1:54:32 AM

→言うまでもないことではございますが……、

わたくしたち、このアプリで巡り逢いましたのよ。

まことに現代風の出会いですわね。

貴方との出会いに乾杯。


テーマ; 巡り逢い

4/23/2025, 2:15:54 PM

→休日。

 薄いきゅうりとハムのサンドイッチ(辛子マヨネーズを効かせて)と、アイスティーの入ったポットを、トートバッグに詰める。
 お気に入りのブラウスにタイトスカートを合わせて、蚤の市で買ったヴィンテージのワンピースを薄手のコート代わりに羽織る。大好きな革靴を履く。
 お出かけ準備完了。
 さぁ、どこへ行こう?
 海? 山? それともショッピングモール?
 仕事とは違って、目的地は気分次第。何にも束縛されないし、誰に気を使うこともない。
 ただのんびりと、自分時間。

テーマ; どこへ行こう

4/23/2025, 6:28:39 AM

→短編・big love !

「出かけんねやったら、明日のパン買って来てや」
「お母さん、もう寝るからな」
「ゴハンいらんときは、ちゃんと連絡し!」
「おカユさん、作ったで。食べられるか?」
 あー! もぅ! オカンの幻聴、うるさい! あと、前から思っとったけど、なんで粥に「お」と「さん」付けんねん。何か粥に恩でもあるんか?
 意識が朦朧とする。
 熱が上がってきてんなぁ。俺、この時期、なぁんか体調崩すねんよな。あー、就職して、ずっと憧れてた東京の一人暮らしやのに、初めの有給、コレかよ。ムカつくし、GWはこっちで遊び倒したる!
 単身者用1DKの部屋が、妙に広く感じられる。
 鍵のない実家の部屋、―家族が、特にオカンが(アンタの洗濯もん、持ってきたで!)勝手に入ってくる―、が恋しくなってくる。
 うっわ、俺、メンタルやられてんなぁ。恋しいとか! 恋しい、とか、……アカン、めっちゃアカン、淋しなってきた……。
 ん? 何やねん。スマホがブルっとる。誰やねん。こんなしんどい時に! あっ……。
―オカンやで。アンタいっつも春に熱出すやろ。元気か?
「……なんで名乗っとんねん」
 力のなくツッコミ。実家やったら、誰か拾ってくれんねんけどな。一人暮らしの部屋に俺の声だけがボソリと響いた。
 SNSのメッセージを打ち返す。
―心配しすぎ。めっちゃ元気やで。GW、そっちに帰るわ。なんかほしい土産あるか?

テーマ; big love !

4/22/2025, 5:04:39 AM

→ディーヴァ

ささやくようなウィスパーヴォイスで

あなたは歌う

恋人との別れを

霧のようなその声が

聴く人の心にシンシンと

共感、感動、感涙

人々はあなたを賞賛する

私だけに罪悪感を植え付ける

お願い、もう許して

あなたの束縛に耐えられなかった

あなたの歌はミリオンヒット

今日も至る所から聞こえてくる

無駄だとわかっていても、私は耳を塞ぐ


テーマ; ささやき

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