→短編・星がほしいかい?
笑ってるね。面白かった? でも、ダジャレじゃないよ。本気で訊いてるんだ。
そういえば、君はそれを夢と呼んでいたね。そして君は夢の実現に突き進んでるんだよね。
じゃあ、僕の質問の答えは決まってるって? まぁ、そう焦らないで。
「夢に向かって進む」と「星を掴む」は同じことなのかな? 僕には、「居場所を得る」のと「成功をホールドする」のとでは、大きく異なるように思うよ。
君がバレエでエトワールになろうと熱心に励んでいる。君は才能も容姿も(バレエには必要な才能だね)、たゆまぬ努力心も兼ね備えている。素晴らしいよ。
君の夢が叶うところまで、あと一歩というところだろう。
だから尋ねたんだ。
君の「星」は、手にすれば火傷するような熱を君に与えるだろうから。あの星は、多くの憧憬や嫉妬が永久機関となって燃え続けている。常に強烈な熱を発している。
初めは耐えられることも、日常となれば状況は変わる。君の代わりに優しい顔で「星」を貰い受けようとする人もいるかもしれない。君の手が、熱に耐えられなくなるかもしれない。もしくは君自身が星に焼き散らされるかもしれない。
それでも君は星が欲しいかい?
あぁ、もう笑わないね。
そう、わかった。
君の瞳に映る星の色がいつまでも変わりませんように。
僕はずっと君を応援してるよ。
テーマ; 星
→短編・転ばぬ先の……
――こんな話を聞いたことがありませんか?
「助けた狐が恩返しに願いを一つ叶えてくれた」とか「落ちていた数字入りのボールを7つ集めたら、龍が出てきて願いを言うよう迫られた」とか……。
複雑に世界線が交差する現代、あなたの身にもふりかかるかもしれない幸運。
もちろん、一番満足度の高い願いを叶えたいですよね?
しかし、咄嗟に願いを思いつくことができるでしょうか? あれやこれやが頭をめぐりその結果……、なんてこともあるやもしれません。
後から「しまった」と後悔するようでは、元も子もないですよね。せっかくの機会を不意にしないよう常日頃から備えておくのは、コストパフォーマンスを重視する現代人のたしなみともいえます。
そんな貴方にオススメしたいのが、不測の幸運に対処するまったく新しい保険「守株待兎」!
弊社独自のメソッドで最大の効果をバックアップいたしております。
有事の際にはお客様専任のスタッフと365日24時間いつでもご相談が可能!
さぁ! 幸運をもれなく隙なく貴方の手に!!――
「なにこれ?」
「保険会社の新商品! すごくない? これがあればもしもの時も安心だよ」
「……あ~、うん」
テーマ; 願いが一つ叶うならば
→短編・寝落ち
「嗚呼!」と絶望とも驚きともつかぬ吐息が貴方の口端に燻る。
感傷的な衝撃に打たれ、身体を震わせた貴方の手から硝子の骰子が滑り落ち、ヘリンボーンの床に派手な音をばら撒いた。骰子に閉じ込められた数字以上の破片が、あらゆる隙間に溶け込んでゆく。
時空を超えて、闇夜に紛れ、朝日に煌めき、私たちにその存在を刻みつけるのだ。
昨日も、そのまま前日も、そのまたさらに前日も、私たちは同じ衝撃を繰り返し、そこから逃れることを知らず、また望まず、永遠の輪を巡る。
幾度となく同じ夜が過ぎ、毎夜繰り返される貴方と私の悲劇的な輪舞は、不可侵の―――………zzz
嗚呼! また同じところで寝落ちしてしまったよぉ! この小説と相性悪いなぁ。ここのシーン、話が進まなくてつまんないんだよなぁ……。
テーマ; 嗚呼
→短文・え〜っ、私のオススメのお店ですかぁ〜? すっごく美味しい中華?のお店なんですけどぉ、興味ありますぅ? あっ、めっちゃ期待した目で頷きますねぇ、ハハハ。ん~~、悩むなぁ。いやぁ、お店を紹介したいんですけどぉ……、独占欲?ヒトに教えたくないって言うかぁ、ホラ、sns とかでバズっちゃったら、なんかヤじゃないですかぁ。私の隠れ家でいてほしいっていう、ファン心理?みたいな。あっ、とりあえずそこの居酒屋行きません? チェーン店ですけど、そこそこ美味しいし。ね?
(・-・ꐦ)イラッ
テーマ; 秘密の場所
→短編・文字ぐるみ
控室でラララは悩んでいた。どうも仕事に熱が入らないのだ。
ラララの仕事は、着ぐるみならぬ文字ぐるみを着て、人の軽やかな気分を代弁することである。何か良いことがあったとき、気分が上々のとき、もしくはハミングするときなどがラララの出番だ。
就職したての頃は楽しかった。人のポジティブな面に花を添えるやりがいを感じていた。しかし長くこの仕事に携わるうちに疑問が生じてきたのだ。明るすぎやしないか、と。
思えばこの仕事に就くとき、面接官はこんな話をしていた。
「感情を伝える仕事は非常に忍耐を要します。さらに一面特化の仕事なので離職率は高いです。実は先日もヨヨヨ担当者が精神的苦痛を理由に退職したばかりでしてね。そういつも悲しんではいられないと。あなたはラララですから少しはマシでしょうが……」
感情表現には自分よりも他者を重んじる滅私奉公的な側面がある。小説でも映画でも中心はキャラクタであって、作者ではない。
「あーぁ、ムムムにしとけば良かったなぁ。もしくはニャニャニャとか」
ため息に呟きを乗せたラララの背後にスタッフの声がかかった。
「あっ! ラララさ〜ん! もうすぐ東京◯ィズ◯ーラン◯のパレード始まるんで、準備お願いしまぁす」
「ラララ……」
はいはいと返事を返そうとしたが、仕事スイッチの入った彼はもう「ラララ」しか発声できなかった。
テーマ; ラララ