一尾(いっぽ)in 仮住まい

Open App
1/22/2025, 3:24:36 PM

→ここで知り合った知らない貴方へ

桜模様の貝殻

針無し目覚まし時計

鍵穴不明の真鍮の鍵

底にインクの固まったインク瓶

ビロード芯のカンテラ

半透明の切手(未使用)

マーブル軸のつけペン

虹の麓で開催された蚤の市で見つけた私の宝物です。どれがお好みですか?

テーマ; あなたへの贈り物

1/22/2025, 6:17:32 AM

→短編・高級中華

彼女と2回目のデート。
しかも、彼女の誕生日!!
中華街に行きたいって。
よしよし、サプライズランチにしよう!
奮発してちょっとグレードの高いレストランを予約した。数種類の点心が色とりどりで可愛くて、彼女が好きそうだったから。何となく女子って品数多いほうが好きっぽいし。
喜んでくれるかなぁ。

こんなすごいお店を予約してくれたの、と彼女。
大きな黒いターンテーブル越しの彼女は、目を丸くして個室の部屋を見回した。
大きな壺とか色鮮やかな掛け軸とか屏風とか、俺たちみたいな大学生でも贅を凝らしていることがわかる。オンライン予約で彼女の誕生日って書いたから気を利かせてくれたみたいだ。
落ち着かないけど、その気遣いは嬉しい。せっかくだから楽しもうと彼女に提案すると、ニヤリと笑ってサムズアップが返ってきた。こういう価値観の似てるところが好き。

店員さんがいないのを良いことに俺と彼女はターンテーブルをいかにして楽しむかを模索し始めた。
点心の蒸籠を等間隔にターンテーブルに並べて回し、目隠しして止める、ルーレット方式。敢えて2人で並んで座ってみる小市民方式。調味料を取る前に素早く左右にテーブルを動かして相手を翻弄するトルコアイス屋台方式……などなど。何か思ってた方面から外れた気がするけど、やっぱり品数多いコースを選んで正解だった!

ほとんどテーブルに何もなくなり、ジャスミンティーを飲んでいるとき、彼女がターンテーブルに赤い包装紙を置いた。ターンテーブルを回す。
黒いテーブルの赤い包装紙は、まるで羅針盤がN極を指すようにピタリと俺の前に止まった。
少し混乱。だって今日は彼女の誕生日。それなのに俺がプレゼントをもらう?
受け取ってほしいな、と言う彼女の言葉に促されるように包みを開けるとキーホルダーが出てきた。
彼女のカバンに付いてるのと同じやつだ。
一緒にペアグッズ持ちたくって。だめ?
少し上目遣いの彼女。ちょっと不安そう。な、なんてこった! もう絶対可愛いし! それに、やっぱり価値観似てるわ。
今度は俺がカバンからプレゼントを出してターンテーブルを回す。今度は彼女が包みを開ける番。彼女が好きなくすみグリーン色のタンブラー。
俺と一緒のヤツ。これならペアでも目立たないし、大学とか家とかどこでも使えるし。
俺の言葉を聞くうちに、彼の肩から力が抜てゆくのがわかった。その顔に笑顔が戻る。
今までで一番最高の誕生日だなぁ〜。
彼女のその言葉が、何よりも嬉しい。
こうして俺はカバンにキーホルダーをつけ、彼女はタンブラーを大事そうにカバンに片付け、俺たち2人は豪華な個室を後にした。

今日のデートはまだまだ続く。


テーマ; 羅針盤

1/20/2025, 4:50:56 PM

→ホワイトチョコのアイスが溶けちゃってねぇ……

明日に向かって歩く、でもそこに到達することはない。
昨日を渡り、今日を生きる。
明日はいつでも蜃気楼のように先にあり、不確定だ。

熱力学第二法則は言う。コンビニ弁当はレンジ必須やで、と。
温かいものが冷めることはあっても、冷たいものが自然に温まることはない。冷凍、解凍もまた然り。時間の不可逆性。
つまり、すぐに家帰るから大丈夫やろって、レジ袋をケチってアイスと温めた弁当は混ぜるなキケンやよってことやねん。

適当な未来予測は、砂上楼閣。
地に足つけてね、『今』の判断。

テーマ; 明日に向かって歩く、でも

1/20/2025, 6:50:29 AM

→短編・ただひとりの君へ

 共通テストが終わった。さっさと自己採点して次のスケジュールに備えなきゃいけないんだけど……、どうにも気持ちに張りがない。燃え尽きちゃった感じ。
 ん? どうしたんだろう? 騒がしいな。校門前に人だかり。スマートフォンで何かを撮ろうとする学生の群と学生を散らそうとする学校職員の人たち。
 面倒に関わる気力もない俺は、その横を通り過ぎますよ、っと。
 騒ぎを迂回しつつ、横目で追っていた俺の目に横断幕が飛び込んてきた。
「ただひとりの君へ。
受験生という殻を堅固を着込んだ君たちは蛹のようだ。誰も彼もが同じように見える。
しかし当たり前ながら、その中身は羽化を待つオンリーワンの君たち。
春はまだもう少し先だ。
『今』を生き抜け。
春は君たちを待っている」
 いつの間にか足が止まり、カバンのスマートフォンを漁る。しかしスマートフォンを探し出した時には、横断幕は取り払われていた。
 急に背中がもぞもぞした。俺の隣のやつも肩を触るふりして肩甲骨を触ってる。
 そうだよな、まだまだ終わってないもんな。これからが本番だ。
 何も撮れなかったスマートフォンを握りしめて、俺は受験会場の大学を後にした。

テーマ; ただひとりの君へ

1/19/2025, 12:55:12 AM

→短編・松山くんは、手のひらに宇宙を作る。

 松山くんは静かな微笑みを浮かべて、手元で糸を繰った。五指にかけた糸を、あるときは両中指から外し、あるときは片方の指の間をくぐらせ、またあるときは手首まで使って糸をダイナミックに動かしてゆく。
「はい、ほうき星」
 糸は、彼の右手の5本の指にかけられ引き伸ばされ、左手側でまとめられていた。
 松山くんは、美しいその流れ星を惜しげもなく爪弾いた。彼の指の動きがさらに複雑さを増した。
「土星」
 しなやかに指を動かすその手の中に小さな惑星が現れた。あやとりは直線を成すものだと思っていたけれど、うまい具合に球体を作っている。土星の輪っかも再現度が高い。
「宇宙人」
 クラゲのようなその姿に私は笑いを吹き出す。松山くんも笑った。
「宇宙船」
 松山くんはその宇宙船を右へ左へ動かした。本当に宇宙を漂っているみたいだ。可愛らしい宇宙探索に私は拍手を送った。
 糸と指の舞台は止まらない。松山くんの宇宙船はもう姿を変え始めている。
 次は何が現れるんだろう、思わず身を乗り出す。手のひらの宇宙に、私はすっかり魅入られていた。

テーマ; 手のひらの宇宙

Next