一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・松山くんは、手のひらに宇宙を作る。

 松山くんは静かな微笑みを浮かべて、手元で糸を繰った。五指にかけた糸を、あるときは両中指から外し、あるときは片方の指の間をくぐらせ、またあるときは手首まで使って糸をダイナミックに動かしてゆく。
「はい、ほうき星」
 糸は、彼の右手の5本の指にかけられ引き伸ばされ、左手側でまとめられていた。
 松山くんは、美しいその流れ星を惜しげもなく爪弾いた。彼の指の動きがさらに複雑さを増した。
「土星」
 しなやかに指を動かすその手の中に小さな惑星が現れた。あやとりは直線を成すものだと思っていたけれど、うまい具合に球体を作っている。土星の輪っかも再現度が高い。
「宇宙人」
 クラゲのようなその姿に私は笑いを吹き出す。松山くんも笑った。
「宇宙船」
 松山くんはその宇宙船を右へ左へ動かした。本当に宇宙を漂っているみたいだ。可愛らしい宇宙探索に私は拍手を送った。
 糸と指の舞台は止まらない。松山くんの宇宙船はもう姿を変え始めている。
 次は何が現れるんだろう、思わず身を乗り出す。手のひらの宇宙に、私はすっかり魅入られていた。

テーマ; 手のひらの宇宙

1/19/2025, 12:55:12 AM