→短編・ただひとりの君へ
共通テストが終わった。さっさと自己採点して次のスケジュールに備えなきゃいけないんだけど……、どうにも気持ちに張りがない。燃え尽きちゃった感じ。
ん? どうしたんだろう? 騒がしいな。校門前に人だかり。スマートフォンで何かを撮ろうとする学生の群と学生を散らそうとする学校職員の人たち。
面倒に関わる気力もない俺は、その横を通り過ぎますよ、っと。
騒ぎを迂回しつつ、横目で追っていた俺の目に横断幕が飛び込んてきた。
「ただひとりの君へ。
受験生という殻を堅固を着込んだ君たちは蛹のようだ。誰も彼もが同じように見える。
しかし当たり前ながら、その中身は羽化を待つオンリーワンの君たち。
春はまだもう少し先だ。
『今』を生き抜け。
春は君たちを待っている」
いつの間にか足が止まり、カバンのスマートフォンを漁る。しかしスマートフォンを探し出した時には、横断幕は取り払われていた。
急に背中がもぞもぞした。俺の隣のやつも肩を触るふりして肩甲骨を触ってる。
そうだよな、まだまだ終わってないもんな。これからが本番だ。
何も撮れなかったスマートフォンを握りしめて、俺は受験会場の大学を後にした。
テーマ; ただひとりの君へ
1/20/2025, 6:50:29 AM