→短編・高級中華
彼女と2回目のデート。
しかも、彼女の誕生日!!
中華街に行きたいって。
よしよし、サプライズランチにしよう!
奮発してちょっとグレードの高いレストランを予約した。数種類の点心が色とりどりで可愛くて、彼女が好きそうだったから。何となく女子って品数多いほうが好きっぽいし。
喜んでくれるかなぁ。
こんなすごいお店を予約してくれたの、と彼女。
大きな黒いターンテーブル越しの彼女は、目を丸くして個室の部屋を見回した。
大きな壺とか色鮮やかな掛け軸とか屏風とか、俺たちみたいな大学生でも贅を凝らしていることがわかる。オンライン予約で彼女の誕生日って書いたから気を利かせてくれたみたいだ。
落ち着かないけど、その気遣いは嬉しい。せっかくだから楽しもうと彼女に提案すると、ニヤリと笑ってサムズアップが返ってきた。こういう価値観の似てるところが好き。
店員さんがいないのを良いことに俺と彼女はターンテーブルをいかにして楽しむかを模索し始めた。
点心の蒸籠を等間隔にターンテーブルに並べて回し、目隠しして止める、ルーレット方式。敢えて2人で並んで座ってみる小市民方式。調味料を取る前に素早く左右にテーブルを動かして相手を翻弄するトルコアイス屋台方式……などなど。何か思ってた方面から外れた気がするけど、やっぱり品数多いコースを選んで正解だった!
ほとんどテーブルに何もなくなり、ジャスミンティーを飲んでいるとき、彼女がターンテーブルに赤い包装紙を置いた。ターンテーブルを回す。
黒いテーブルの赤い包装紙は、まるで羅針盤がN極を指すようにピタリと俺の前に止まった。
少し混乱。だって今日は彼女の誕生日。それなのに俺がプレゼントをもらう?
受け取ってほしいな、と言う彼女の言葉に促されるように包みを開けるとキーホルダーが出てきた。
彼女のカバンに付いてるのと同じやつだ。
一緒にペアグッズ持ちたくって。だめ?
少し上目遣いの彼女。ちょっと不安そう。な、なんてこった! もう絶対可愛いし! それに、やっぱり価値観似てるわ。
今度は俺がカバンからプレゼントを出してターンテーブルを回す。今度は彼女が包みを開ける番。彼女が好きなくすみグリーン色のタンブラー。
俺と一緒のヤツ。これならペアでも目立たないし、大学とか家とかどこでも使えるし。
俺の言葉を聞くうちに、彼の肩から力が抜てゆくのがわかった。その顔に笑顔が戻る。
今までで一番最高の誕生日だなぁ〜。
彼女のその言葉が、何よりも嬉しい。
こうして俺はカバンにキーホルダーをつけ、彼女はタンブラーを大事そうにカバンに片付け、俺たち2人は豪華な個室を後にした。
今日のデートはまだまだ続く。
テーマ; 羅針盤
1/22/2025, 6:17:32 AM