一尾(いっぽ)in 仮住まい

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1/20/2025, 4:50:56 PM

→ホワイトチョコのアイスが溶けちゃってねぇ……

明日に向かって歩く、でもそこに到達することはない。
昨日を渡り、今日を生きる。
明日はいつでも蜃気楼のように先にあり、不確定だ。

熱力学第二法則は言う。コンビニ弁当はレンジ必須やで、と。
温かいものが冷めることはあっても、冷たいものが自然に温まることはない。冷凍、解凍もまた然り。時間の不可逆性。
つまり、すぐに家帰るから大丈夫やろって、レジ袋をケチってアイスと温めた弁当は混ぜるなキケンやよってことやねん。

適当な未来予測は、砂上楼閣。
地に足つけてね、『今』の判断。

テーマ; 明日に向かって歩く、でも

1/20/2025, 6:50:29 AM

→短編・ただひとりの君へ

 共通テストが終わった。さっさと自己採点して次のスケジュールに備えなきゃいけないんだけど……、どうにも気持ちに張りがない。燃え尽きちゃった感じ。
 ん? どうしたんだろう? 騒がしいな。校門前に人だかり。スマートフォンで何かを撮ろうとする学生の群と学生を散らそうとする学校職員の人たち。
 面倒に関わる気力もない俺は、その横を通り過ぎますよ、っと。
 騒ぎを迂回しつつ、横目で追っていた俺の目に横断幕が飛び込んてきた。
「ただひとりの君へ。
受験生という殻を堅固を着込んだ君たちは蛹のようだ。誰も彼もが同じように見える。
しかし当たり前ながら、その中身は羽化を待つオンリーワンの君たち。
春はまだもう少し先だ。
『今』を生き抜け。
春は君たちを待っている」
 いつの間にか足が止まり、カバンのスマートフォンを漁る。しかしスマートフォンを探し出した時には、横断幕は取り払われていた。
 急に背中がもぞもぞした。俺の隣のやつも肩を触るふりして肩甲骨を触ってる。
 そうだよな、まだまだ終わってないもんな。これからが本番だ。
 何も撮れなかったスマートフォンを握りしめて、俺は受験会場の大学を後にした。

テーマ; ただひとりの君へ

1/19/2025, 12:55:12 AM

→短編・松山くんは、手のひらに宇宙を作る。

 松山くんは静かな微笑みを浮かべて、手元で糸を繰った。五指にかけた糸を、あるときは両中指から外し、あるときは片方の指の間をくぐらせ、またあるときは手首まで使って糸をダイナミックに動かしてゆく。
「はい、ほうき星」
 糸は、彼の右手の5本の指にかけられ引き伸ばされ、左手側でまとめられていた。
 松山くんは、美しいその流れ星を惜しげもなく爪弾いた。彼の指の動きがさらに複雑さを増した。
「土星」
 しなやかに指を動かすその手の中に小さな惑星が現れた。あやとりは直線を成すものだと思っていたけれど、うまい具合に球体を作っている。土星の輪っかも再現度が高い。
「宇宙人」
 クラゲのようなその姿に私は笑いを吹き出す。松山くんも笑った。
「宇宙船」
 松山くんはその宇宙船を右へ左へ動かした。本当に宇宙を漂っているみたいだ。可愛らしい宇宙探索に私は拍手を送った。
 糸と指の舞台は止まらない。松山くんの宇宙船はもう姿を変え始めている。
 次は何が現れるんだろう、思わず身を乗り出す。手のひらの宇宙に、私はすっかり魅入られていた。

テーマ; 手のひらの宇宙

1/17/2025, 5:55:33 PM

→埋没話・2 〜横断歩道〜

 強い風が吹く3月上旬のニューヨークのマンハッタンで、まだ他人同士の二人は横断歩道の両端に立って信号が変わるのを待っていた。
 その日、ナオミは友人との待ち合わせしていた。
 その日、彰人は知人に呼び出されたところだった。
 信号が赤から緑へ変わり、歩行者の横断が始まった。その流れに乗って二人も歩き出す。
 ナオミの整った顔立ちは人目を引いた。長く艶のある黒髪と切れ長の瞳や対極をなす白い肌が彼女の美しさを引き立てている。
 片や彰人は周囲の無関心の中にいた。眉目秀麗な彼の風貌は分厚い前髪と黒縁の眼鏡に隠れており、誰の目も引かない。
 ナオミと彰人がすれ違う瞬間、冬の終わりと春の始まりをはらむビル風が、ゴォっと音を立て通行人の足元をすくい上げるように地を渡った。
 強風に足を取られたナオミの体が大きくふらつき、彰人にぶつかった。咄嗟に、彰人は倒れそうになったナオミの腕を取った。
 そのおかげで転倒せずにすんだナオミは、恩人に明るく笑いかけた。
「ありがとうございます! 危うく道路とキスするところでした」
 ナオミの朗らかさに、内向的な彰人は気後れした。あぁうんと言葉にならない返事をするのが精一杯だ。なぜか彼の心臓がドクンと脈打った。
 行き交う人の流れが速くなる。信号が変わろうとしていた。
 彰人は「じゃあ」と消極的な挨拶を口にし、「良い一日を!」とナオミは軽く手を振った。
 二人は横断歩道を渡りきり、当時に振り返った。信号が変わった道路を、車が途絶えることなく通り過ぎてゆく。
 あまりにも多い車列が、二人の視線を遮っていた。
  
テーマ; 風のいたずら

 〜埋没話=中編小説の不使用エピソード〜

1/17/2025, 3:20:18 AM

→濡れ煉瓦通りの古書店で見つけた本から抜粋

〜感情結晶〜
極めて純度の高い涙を蒸留すると、エーテルと結晶に分化する。この結晶を感情結晶という。
硝子よりも透明で氷よりも解けやすい。
自動人形の眼底に使用することで、心の機微に反応した涙を流す効果を発動する。
     『アルケミスト鉱物全集』より

テーマ; 透明な涙

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