一尾(いっぽ)in 仮住まい

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11/5/2024, 2:52:18 AM

→短編・日記

11月4日(曇り)
 今日はお父さんと哀愁の一本釣りに来ました。
 海は鉛色の雲を写したように暗い色をしていました。風が吹いて、お弁当の入ったコンビニの袋をペラペラ揺らしました。浜辺には誰もいなくて、振り返ると僕とお父さんの足跡だけが砂浜に残っていました。お父さんはしばらくじっとその足跡を見たあとで、僕の頭を撫でました。
「今日みたいな海にはたくさんの哀愁が漂うんだ。今きっといい哀愁が釣れるぞ」
 お父さんの声は明るかったけど、目が赤くて泣いてるみたいでした。
「いっぱい釣ろうね、哀愁」
 本当は「大丈夫?」って聞きたかったけど、昨日の夜のことを思い出して言えませんでした。
「哀愁に最適なのは、こういうルアーだ」
 お父さんは、釣り道具屋の特価品売り場にあった一番顔の可愛くないルアーを、僕に見せるように目の前で振りました。
「哀愁はサーフフィッシングがかかりやすい。なるべくぎこちなく手繰り寄せるんだ。他の魚にはバレる拙い動きが哀愁を誘う」
 僕とお父さんは何度も釣り竿を振りました。可愛くない顔のルアーを海と砂浜を行き来させていると、僕はちょっと悲しくなりました。
「ルアー、可哀想だね」
「それでいいんだ」
 お父さんは機械みたいにルアーを放り投げていました。何か考え事をしてるみたいでした。知らない人みたいに見えました。
 結局、僕たちは哀愁を釣ることができませんでした。お昼ごはんを食べるのを忘れていたので、家に帰ってからコンビニのお弁当を温めて食べました。
 家の中はすごく静かで、昨日の夜と全然違うなと思いました。昨日はお父さんとお母さんがずっと大きな声で喧嘩をしていました。
 僕は今日の朝からお母さんに会っていません。お母さん、どこに行ったんだろう? 昨日まで玄関にあったお母さんの靴や、コート掛けのコートやカバンはどこに行ったんだろう?
 いっぱいハテナが頭に浮かんだけれど、もう寝なさいとお父さんに言われたので寝ることにしました。
「おやすみなさい」
 歯磨きのあと、ダイニングのお父さんに挨拶しました。お父さんは僕に背中を向けたまま「うん」と返しました。
 釣れてないと思ってた哀愁が、お父さんの背中に引っかかっていました。
 
 テーマ; 哀愁を誘う

11/3/2024, 6:28:59 PM

→短編・日々是度々

「顔の皮膚はオブラートほど薄く弱いそうなので、スキンケアの際には、触るか触らないかの力でお手入れするのが良いそうですよ。
 だからね、朝に寝過ごして、ダッシュで洗顔してローションを叩くようにつけて、乳液を刷り込むような事態にならないように、さっさと寝なさい」
 寝る前に鏡の中の自分に言い聞かせておけば、ベッドに入ってからのスマートフォンのダラダラ見を防げるに違いない。
 今日こそ! 今日こそ! 今日から絶対に怠惰な自分を脱却し、丁寧な生活に切り替えるのだ!
「ん?」
 あっ、プッシュ通知来た。おぉ、推しの動画新着のお知らせ! これは見なきゃなぁ〜。これを見てから寝てもぜんぜん遅くならないし、何なら、もうちょっと他のヤツも見ても……。


テーマ; 鏡の中の自分

11/2/2024, 3:42:12 PM

→割とよくあるんですよ……

「なぁんだ! 今日のテーマ、何も思い浮かばんと思ってたのに、書いてみたらサクサク進むやん! アハハハ! 筆が止まんねぇぜ!!」
 
上記は、眠りにつく前に何とか書き上げようとスマートフォンとにらめっこをしながら寝落ちしたときに見る夢である。
もちろん、朝起きても白紙のまんまだ。


テーマ; 眠りにつく前に

11/2/2024, 8:50:39 AM

→短編・さっさと注文しろ

 友人とカフェに来た。
「永遠に愛してるとか、君のためなら死ねるとか言う人は苦手だなぁ」と友人。
「そんなこと言う奴いるかねぇ」と返す私。
「ロマンチスト気質がムリっていうか……」
「あ~、わからんでもない。でも、白馬に乗った王子様待ちなんでしょ?」
「それはロマンじゃなくて胆力の問題。そんなバカげた私の理想に付き合って、白馬借りてのコスなんてされたら、そりゃ落ちるでしょ」
「胆力とか……、日常会話で聞かん単語チョイスしやがって」
「かぐや姫級無茶振りを叶えてくれる人いないかなぁ」
「夢見がちリアリストですなぁ」
「それって……――」
「ご注文、お決まりですかぁ?」と、店員さんから声をかけられて、私と友人は顔を見合わせた。
「すみませーん、もうちょっと待ってくださーい」
 メニューすら開かず、永遠に話し続けるところだったわ……。

テーマ; 永遠に

11/1/2024, 7:11:41 AM

→短編・展覧会 〜行列の二人・2〜

 理想郷をテーマにした展覧会を訪れたのだが、なかなか盛況なようで、入館待ちの行列ができていた。しばらくして私の後ろにも人が並び始める。
 一人で並ぶ私の耳に、後ろの会話が飛び込んできた。
「俺の理想郷ってさ、ストレスフリーで毎日ご機嫌に暮らせるところかなぁって思うんだよね」と楽しげな声に、「あ~、それはそうかも」と冷静な声が答えた。
 声からして高校生くらいの少年2人のようだ。なんか微笑ましいな、―っていうか、この声に聞き覚えがあるような……? でも高校生と交流ないし、気のせいか。
「もし俺が100%俺の理想を詰め込んだ国を作ったら、お前を招待するな」
 え、何? その可愛いお誘い。高校生かと思ったけど、中学生なのかな?
 冷静っぽい子、どう答えるんだろう?
「いや、ムリ」
 ……。
「……」
「……」
 会話を交わしていた少年は言うに及ばず、私の前の女性3人まで沈黙する。おいおい、耳を澄ませてんの、私だけじゃないんかい!
「お前ユートピア100なら、確かにお前はストレスフリー。でも俺は? 面白くねぇよ」
 なるほど、あちらを立てればこちらが立たず。冷静すぎるだろ、君。
「じ、じゃあ!」と答える側が声を裏返らせ、呼吸を整えた。あっ、この子たちって、もしかして……。
「50ユートピアで!」
 迫力のある力強い声。あぁ、やっぱりこの子たち、この前のおばんざいビュッフェの時の子たちだわ。
「勝手にユートピアを単位にすんな」
「だってさぁ」
「50/50の理想郷なら、テーマパークで良くね? クリスマスイベント始まってるし」
「マジ? いつ行く?」
 うっわぁぁ〜、何だ何だ! 私は今、何を目撃……ではなく耳撃したんだ? 
 前に並ぶ女性の一人が、私に小さなサムズアップを見せた。うん、と同士に微かに頷き返す。
 あ~、展覧会の前に心が満たされちゃったよ。

テーマ; 理想郷

〜行列の二人〜
 ・10/26 一人飯(テーマ; 友達)

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