一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・展覧会 〜行列の二人・2〜

 理想郷をテーマにした展覧会を訪れたのだが、なかなか盛況なようで、入館待ちの行列ができていた。しばらくして私の後ろにも人が並び始める。
 一人で並ぶ私の耳に、後ろの会話が飛び込んできた。
「俺の理想郷ってさ、ストレスフリーで毎日ご機嫌に暮らせるところかなぁって思うんだよね」と楽しげな声に、「あ~、それはそうかも」と冷静な声が答えた。
 声からして高校生くらいの少年2人のようだ。なんか微笑ましいな、―っていうか、この声に聞き覚えがあるような……? でも高校生と交流ないし、気のせいか。
「もし俺が100%俺の理想を詰め込んだ国を作ったら、お前を招待するな」
 え、何? その可愛いお誘い。高校生かと思ったけど、中学生なのかな?
 冷静っぽい子、どう答えるんだろう?
「いや、ムリ」
 ……。
「……」
「……」
 会話を交わしていた少年は言うに及ばず、私の前の女性3人まで沈黙する。おいおい、耳を澄ませてんの、私だけじゃないんかい!
「お前ユートピア100なら、確かにお前はストレスフリー。でも俺は? 面白くねぇよ」
 なるほど、あちらを立てればこちらが立たず。冷静すぎるだろ、君。
「じ、じゃあ!」と答える側が声を裏返らせ、呼吸を整えた。あっ、この子たちって、もしかして……。
「50ユートピアで!」
 迫力のある力強い声。あぁ、やっぱりこの子たち、この前のおばんざいビュッフェの時の子たちだわ。
「勝手にユートピアを単位にすんな」
「だってさぁ」
「50/50の理想郷なら、テーマパークで良くね? クリスマスイベント始まってるし」
「マジ? いつ行く?」
 うっわぁぁ〜、何だ何だ! 私は今、何を目撃……ではなく耳撃したんだ? 
 前に並ぶ女性の一人が、私に小さなサムズアップを見せた。うん、と同士に微かに頷き返す。
 あ~、展覧会の前に心が満たされちゃったよ。

テーマ; 理想郷

〜行列の二人〜
 ・10/26 一人飯(テーマ; 友達)

11/1/2024, 7:11:41 AM