→短編・門出
神聖なチャペルで列席者に見守られながら、僕たちは指輪の交換を終えた。
ステンドグラス越しの陽光が、ウェディングドレスに身を包んだ彼女を美しく浮き立たせる。
パイプオルガンの控えめなBGM が流れてきた。これを合図にベールアップという進行。
「ベールアップってね、二人の間にある最後の壁を取り払うって意味なんだって」
彼女が式場選びの時に言った言葉が脳裏をよぎり、ベールに手をかけようとした僕の手が止まった。
動きを止めた僕のモーニングの裾がツィっと引かれた。固まった父親を心配した様子で見上げる幼い息子と目が合った。列席者に座る彼女の小学生の娘も緊張の面持ちでこちらを見ている。
僕は娘に微笑みかけ、息子の頭を撫でた。
色々あったこれまでが押し寄せる。順風満帆な交際ではなかった。お互いに疑心暗鬼になり、別れる一歩手前まで陥ったこともあった。それでもここまでやってこれたのは……――。
僕は彼女に向き直った。ベールの下、彼うつむき加減のまま微笑む彼女が、今までになく愛おしい。
彼女のベールを手に取る。わずかな重さ、すべらかな手触りが僕に強い覚悟をもたらす。
新しい人生の始まり。それはすなわち未来であり、希望であり、大きな責任だ。
最後の壁よ、さようなら。
神聖なやわらかい光に包まれて、僕たちは今日、皆で家族になる。
テーマ; やわらかな光
→短編・一瞬の邂逅
信号待ちで道路端に立って、視線を感じて見上げたら、マンションの窓辺から奇抜な衣装の人形が鋭い眼差しでこちらを見ていた。とんがり帽子を被り、マントを羽織っている。
「魔女や……」
つぶやく私に合わせて、隣の女性まで顔を上げる。
「いや! ホンマや! おばちゃん、毎日ここ通ってるけど気が付かへんかったわ」
「ハロウィンですかね?」と私。
ちなみに彼女の言う「いや! ホンマや!」は「いとをかし」と同じような強い感動を表す関西弁である。
「エライご面相の人形やなぁ。どうせやったら美人のねぇちゃんにしたらエエのに!」
私たち二人に釣られて同じ方面を見た男性まで会話に加わる。
「今時分、そんなん言うたらセクハラや言われんで」
女性の早い切り返しを最後に信号が変わって、私たちは再び赤の他人に戻った。
魔女人形はハロウィン関係なく窓辺に置かれており、あの束の間の邂逅以来、私は彼女に黙礼するようになった。
奇妙な会話を交わした二人もたまには見上げているのだろうか?
テーマ; 鋭い眼差し
→短編・お茶目なAちゃんと私
年に数回、Aちゃんは手紙を寄越す。センスのいい封筒に、これまたセンスのいい切手を貼って。
でも私は彼女に返信したことも、私から手紙を出したこともない。だって彼女とはSNS 毎日やり取りしてるし、手紙のいろいろ……、例えばペンとか便箋とかにお小遣いを費やせるほど、中学生のお財布事情は華やかではない。
ところで、今年の夏はとても暑かった。そんな時期が過ぎ去って、秋っぽくなってきた。
国語の先生が秋の表現を幾つか黒板に書き出していた。「秋の日は釣瓶落とし」とか、「錦秋」とか、「天高く馬肥ゆる秋」とか。
その時、ふと予感がした。
あっ、Aちゃんから手紙来るかも、と。
――案の定。2日後、郵便受けに私宛の手紙。
「天高く高く馬肥ゆる秋、如何お過ごしですか? 夏がめっちゃ暑かったから、秋の空も合わせたほうがいいかと思って、ぶち上げてみました」
やっぱりなぁ……、Aちゃん、目ぇ輝かせて国語の先生の話聞いてたもんなぁ。
ちなみにAちゃんの家は、私の家の2軒となり。私たちは同じ学校に通うクラスメイトだ。
テーマ; 高く高く
→マジで回答が聞きたいんだが……
質問!
「大人しく」と「子供のように」は対義語ですかね?
これら表現って、そのうちアンコンシャス・バイアスだと無鉄砲な多様性網に引っかかったりするんですかね?
十人十色の回答があるはずなんだよなぁ〜。聞いてみてぇなぁ、あぁ、無念!
テーマ; 子供のように
→中学校時代
授業が終わって、何となく居残って友人たちとダラダラ話す。人の少なくなった教室に、大笑いをばら撒いて。
どんな話だったかな? 細かい内容は覚えていない。内輪話だったと思う。仲間だけで作り上げた世界観を共有して笑い転げ、時に憤慨して。何の衒いもなく真っ直ぐに、希望と理想に輝く視野で正義と仁義とユーモアを元手に結束していた。飽きることなく、疲れることなく、あの熱量を懐かしく感じる。
クーラーなんてなかった時代。夏場は汗に構うことなく、タオル片手に大笑い。鋭く入り込む西日や寒さなど物ともせず冬の日々。
仕方なく、そろそろ帰ろうかと暗黙の了解で立ち上がる。
あの頃の私たちにとって、放課後は無敵時間だった。
テーマ; 放課後