: 一年後
また今度
: 子どものままで
ママ、今度の日曜日、ご飯食べに
行くから、空けといてね
パパには言っとくから
じゃあいってきます
分かった、いってらっしゃい
スーツが馴染んできた背中に
くっつけるように返事を返す
早速カレンダーに印をつけようと…
あっ、そうかぁ~
第二日曜日、忘れてた…
ふふふっ! 楽しみだわ
さあここよ、入ろう!
とっても雰囲気のよい空間に
これまたとってもいい匂いが漂う
ママは何にする?
メニューの中に並ぶ誘惑の文字たち
落ちつくのよ、私!
これだ、決めた!
お子様ランチにする!
言うと思った
娘は嬉しそうに目尻を下げている
いや、大人しかいないのにお子様ランチって
注文受けてくれるのか?
私の心は、子どものままで止まってるの
今もなお、ピュアなのよ
ただ精神年齢がひく…イタァ…
じゃあ注文するね
母なんですけど、お子様ランチ1つと
じゃあパパは…
パパはオムライスだから、いいね?
は、はい…
私はハンバーグで
かしこまりました
周りのお客さんの顔を見ているだけで
めちゃくちゃ美味しいのがわかる
期待が高まっちゃうじゃないの…
お待たせいたしました
お子様ランチでございます
き〜た〜、私のお子様ランチ!
わぁ~、オムライスに海老フライにハンバーグ
夢の共演じゃないの〜
自分でも目がキラキラしているのがわかる
その中でも一際私の目を奪ったもの それは…
誇らしげに一旒の旗を掲げているプリン
旗には見覚えのある丸い文字で
お母さん、いつもありがとうと記されている
プリンがドヤ顔をして私を見ている
なんでプリンがドヤ顔なのよ…
嬉しいのに泣けてきた
オトナ仕様のお子様ランチに
手書きの文字
なるほど、そういうことなのね
よぉ~し、いただきます!
うん、どれも美味しいし、最高だね
やいプリン、自分は食べられないって
思ってるでしょ?
一瞬顔を引きつらせたプリンを
容赦なく胃袋におさめていく
いやぁ~、本当に美味しかったよ
でしょ、また来ようね
今日は私の奢りですから〜
パパの分は後で貰うね
は、はい…
冗談だってば
帰りにケーキ買っていこうよ
美味しいお店があるから…
3人で並んだ帰り道
少し暖かな5月の風が
私たちをゆっくり追い越していった
桜月夜
: モンシロチョウ
菜の花が集う河川敷
娘と2人で散歩する
天気が良い日はもちろん
雲の出番が多い日であろうと
雨が元気よく傘を弾こうと
まったくお構いなしに
娘と2人で散歩する
幼稚園で仲良しと喧嘩して
とても落ち込んでいたある日
今日はお散歩どうする?
元気のない足を靴に滑り込ませ
少しうつむき加減で家を出た
いつもの優しい黄色が目にはいると
小さな背中がスッとのびる
おもむろに急く足が向かった先に
白い妖精が手招いていた
羽衣が舞うモンシロチョウ
菜の花と優美に踊るその後を
娘は嬉しそうについて行く
娘の背中を眺めながら
これから先も見守っていく
たとえ、もう抱きしめることは
できなくともかまわない
娘が少し寂しげに振り向く瞳が
淡い春の光に、溶けて、消えた…
桜月夜
: 忘れられない、いつまでも。
書けないよ…
: 一年前
そう、僕の恋は、一年前に終わりを告げた…
僕はある日、一人の女性と出会った
彼女は僕を見るなり微笑んだんだ
そして言ったんだ、とびっきりの笑顔で
おはようございますって
僕は緊張するあまり
上手く挨拶を返すことができなかった
僕の周りにいた人たちは、ちゃんと
挨拶を返せていたのに…
僕の心は、彼女を見るたび高鳴った
彼女も、僕を見るたび笑顔をむけた
もうこれは間違いない
彼女もきっと僕のことが好きなはず…
けれど、一つ心配があった
彼女の可愛い笑顔と優しさのせいで
とにかく人気が半端ないのだ
いつも彼女の周りにはたくさんの人
そしてあろうことか、告白するものもいる
ボクね、もも先生のこと大好きだよ〜
あぁ~、私だってもも先生のこと大好き〜
まぁ〜、ありがとう
もも先生もみんなのことが大好きだよ
そんな…あ、ありえない…
僕は、一年前に悟ったのさ
女の笑顔を、信じてはいけないと…
桜月夜