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   : 揺れる木陰


 とある真夏の日曜日、照りつける太陽は
 朝から上機嫌に笑っている

 娘夫婦が久しぶりに遊びに来るらしい
 妻は嬉しそうに台所に立っていた

 私にできることはと考えていたら
 うん、アレだなと思い、家を出た

 じりじりと弱音を吐く麦わら帽子が
 少し不憫に思えてきた
 首筋を流れ落ちる汗が、頼むから
 なんとかしてと叫んでいる

 お気に入りの大きな桜の木を覆い隠すような
 まだ柔らかい青葉が太陽と奮闘している

 私も辛抱しきれず枝の下に隠れ込む
 すまないが、少しお邪魔するよ
 挨拶がてら、上を仰ぎ見る

 微かな風に揺れる木陰が
 私に安らぎを与えてくれる

 麦わら帽子も助かったとばかり
 シャキッと張りを取り戻す

 申し訳なさそうに蝉が鳴き出した
 きっと、涼を喜んでいるのだろう

 さて、そろそろ行くか

 家族の好物の丸いスイカを持ち上げ
 桜の木にありがとうを告げる

 なんてことはないさと
 木陰が静かに揺れた

 ぶつくさ言う麦わら帽子を連れて
 私を優しく見送る桜の木を後にした


                  桜月夜

7/17/2025, 5:18:22 PM