勉強も運動も嫌いで、毎日がつまらなくて仕方なかったのに
君と出会って
君と一緒に行動するようになってからは
なんでだろう
毎日が楽しく感じるんだ
こう思えたのも、君のおかげなのかな
こんな日々がこれからも続くといいなぁ
【きっと明日も】
君と付き合ってからはじめて行った君の家
付き合う前も何度か行って一緒に遊んでいたはずなのに
なんでかすごく、緊張したんた
その後は何事もなくいつもみたいに遊んで
雨が降りそうだからって帰ろうとしたんだ
そしたら雨が降ってきた
空は晴れていたのに
こういうのを狐の嫁入りっていうんだっけ
あ、話が逸れちゃった
それでさ、その日は傘を持って行ってなかったから君から借りて帰ろうと思ったんだ
そのことを伝えたら君は
少し迷ったような顔をしていたね
それから意を決したように言ったんだ
『…もう少し雨が止むまでここにいない?』
ってさ
驚いたけどそれ以上に嬉しかった
付き合ったのにいつもと同じなだけは味気なかったから
もちろん、楽しかったけど
もう少し、友達以上に君について知りたかったんだ
まぁすぐに止んじゃったんだけどね
結局何が言いたいのかって?
ふふ、ねぇ今日はあの日みたいだと思わない?
あの日みたいに関係を変えるのにもぴったりの日だと思ったんだ
それで何が言いたいかって言うとね、
「指輪、作りに行きませんか?」
…まわりくどいって?
ごめんね、直そうとは思ってるんだけど悪い癖が出ちゃったね
あはは、そんなに泣いてくれると思わなかったなぁ….
それじゃあ早速雨が止んだら作りに行こうか
【通り雨】
余命宣告を受けていた君と二人同じ病室だったよね
窓からは桜の木が見えて
君はよく言っていたね
『あの桜の木に花が咲いても見れないんだろうなぁ』
って
それを聞いた時
言うんだったら、あの桜が散ったら、なんじゃないの
って思ったよ
まぁ単純にあの桜は散ったばっかりだったからそう言ったんだろうけど
どうせなら、この景色も一緒に見たかったな
君に会えるまであと半年ちょっと、か
それまでに色々と土産話を用意しとくよ
【窓から見える景色】
みんなが走り回って遊んでる中
一人でジャングルジムに登ってその様子を見るのが好きだった
あの日も一人で登っていた
そしたら登ってこようとする子がいた
顔は見えなかったから誰かはわからなかった
いつもは自分一人しか登らなかったから珍しいなぁと思っていた
でも少ししても来る様子がない
登るのやめたのかなと思ったけどちらっとみたらまだ登ろうとしていた
どうやら苦戦しているようだ
それでもわざわざ手伝ってあげようとは思わなかった
次の日
また登ってこようと頑張っているようだ
でも、今日も無理そうだ
後二日もすればもう登ってこないだろう
そう思っていたのに、それから三日しても登ろうとしてた
根性があるんだなと少し、驚いた
それから何日か経ってその子は来なくなった
ああ、やっぱり諦めたか
もしかしたら…と思っていたけど仕方がないか
数日後
いつも通りジャングルジムに登った
しばらくはそのままいて降りようかなと思ったら
『よいしょ…やっとのぼれた!』
という声が聞こえた
そこには何度も登ろうとしていた子がいた
ついに登れたらしい
その子と目が合った
あ、やばい
目を逸らそうとしたら笑いかけられた
『やっと話せる!』
え?
『いっつもここにいて話せなかったから』
それじゃあ話すためだけに登ってきたのか
それも何日もかけて
ははっ、ばっかみたい!そのためだけに登るなんて
「きみ、かわってるね」
『それじゃあお揃いだ!』
この日見た景色はいつもよりも良く見えた
【ジャングルジム】
声が聞こえる、大体の人にとっては当たり前のことだろう
けれどあの子にとってはそうじゃなかった
生まれた時から音のない世界で生きてきた
それを知ってからは手話を拙いながらもしたり、文通をして意思疎通をした
そもそもあの子と知り合ったのは病室だった
手術をする必要があり、二週間の間だけ泊まることになったんだ
最初は隣に誰がいるのかわからなかった
でも、三日目にあの子が手紙をくれた
それからしばらくは文通をして仲良くなった
ある日あの子と話したいと思い、話しかけた
けれどそれに言葉や反応は返ってこなかった
その時は眠っているのかとも思ったけど布の差擦れる音が聞こえたから起きているとわかった
無視されているのかとも思ったときにあの子がカーテンを開けたんだ
そのときに初めて気づいた、みたいな顔をしたから聞いてみたんだ
耳が悪いのかって
そしたらあの子は紙とペンを持ってそこに
『生まれた時から何も聞こえない』
ってそう書いたんだ
その日からは文通だけじゃなくて、手話を少しずつ教えてもらったり自分で調べたりした
手術は怖かったけどあの子が応援してくれたから無事に終われた
あの子と一緒にいるのは楽しかった
退院してからも仲良くしたいってそう思った
それを伝えたらあの子は曖昧に笑って
『そうだね』
って
でも、退院する二日前に、あの子は…亡くなった
夜中いきなりピーという音が聞こえてなんだろうって思っていたら看護師さんが来て…あの子は運ばれて行った
それから帰ってくることは、なかった
信じたくなくて、悲しくて、寂しくて、布団の中で泣いたんだ
そしたら看護師さんの話し声が聞こえたんだ
あの子は珍しい血液型で輸血ができないから痛みを和らげることくらいしか出来なかったんだって
親はあの子を病院に入れるだけ入れて一回も会いにこなかったって
ああ、だからあの子は曖昧に笑ったんだ
きっと退院できないって、わかっていたから
なのに呑気に当たり前のように退院したらって…そこまで考えたらもう、ダメだった
何も聞きたくない、何も考えたくない
そう思ったとき、
『泣かないで、笑って』
って聞こえた気がしたんだ
なんでかわからないけどこの声はあの子だってそう思った
…あの子は笑顔が好きだったなってそう思ったら涙が止まったんだ
せめても笑っていようって無理矢理にでもって
あの子の声は、とても綺麗だった
【声が聞こえる】