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声が聞こえる、大体の人にとっては当たり前のことだろう
けれどあの子にとってはそうじゃなかった
生まれた時から音のない世界で生きてきた
それを知ってからは手話を拙いながらもしたり、文通をして意思疎通をした

そもそもあの子と知り合ったのは病室だった
手術をする必要があり、二週間の間だけ泊まることになったんだ

最初は隣に誰がいるのかわからなかった
でも、三日目にあの子が手紙をくれた

それからしばらくは文通をして仲良くなった

ある日あの子と話したいと思い、話しかけた
けれどそれに言葉や反応は返ってこなかった
その時は眠っているのかとも思ったけど布の差擦れる音が聞こえたから起きているとわかった

無視されているのかとも思ったときにあの子がカーテンを開けたんだ
そのときに初めて気づいた、みたいな顔をしたから聞いてみたんだ

耳が悪いのかって
そしたらあの子は紙とペンを持ってそこに

『生まれた時から何も聞こえない』

ってそう書いたんだ

その日からは文通だけじゃなくて、手話を少しずつ教えてもらったり自分で調べたりした


手術は怖かったけどあの子が応援してくれたから無事に終われた
あの子と一緒にいるのは楽しかった
退院してからも仲良くしたいってそう思った

それを伝えたらあの子は曖昧に笑って
『そうだね』
って

でも、退院する二日前に、あの子は…亡くなった

夜中いきなりピーという音が聞こえてなんだろうって思っていたら看護師さんが来て…あの子は運ばれて行った
それから帰ってくることは、なかった

信じたくなくて、悲しくて、寂しくて、布団の中で泣いたんだ

そしたら看護師さんの話し声が聞こえたんだ

あの子は珍しい血液型で輸血ができないから痛みを和らげることくらいしか出来なかったんだって

親はあの子を病院に入れるだけ入れて一回も会いにこなかったって

ああ、だからあの子は曖昧に笑ったんだ
きっと退院できないって、わかっていたから

なのに呑気に当たり前のように退院したらって…そこまで考えたらもう、ダメだった

何も聞きたくない、何も考えたくない
そう思ったとき、

『泣かないで、笑って』

って聞こえた気がしたんだ
なんでかわからないけどこの声はあの子だってそう思った

…あの子は笑顔が好きだったなってそう思ったら涙が止まったんだ

せめても笑っていようって無理矢理にでもって


あの子の声は、とても綺麗だった

【声が聞こえる】

9/23/2024, 11:32:36 AM