みんなが走り回って遊んでる中
一人でジャングルジムに登ってその様子を見るのが好きだった
あの日も一人で登っていた
そしたら登ってこようとする子がいた
顔は見えなかったから誰かはわからなかった
いつもは自分一人しか登らなかったから珍しいなぁと思っていた
でも少ししても来る様子がない
登るのやめたのかなと思ったけどちらっとみたらまだ登ろうとしていた
どうやら苦戦しているようだ
それでもわざわざ手伝ってあげようとは思わなかった
次の日
また登ってこようと頑張っているようだ
でも、今日も無理そうだ
後二日もすればもう登ってこないだろう
そう思っていたのに、それから三日しても登ろうとしてた
根性があるんだなと少し、驚いた
それから何日か経ってその子は来なくなった
ああ、やっぱり諦めたか
もしかしたら…と思っていたけど仕方がないか
数日後
いつも通りジャングルジムに登った
しばらくはそのままいて降りようかなと思ったら
『よいしょ…やっとのぼれた!』
という声が聞こえた
そこには何度も登ろうとしていた子がいた
ついに登れたらしい
その子と目が合った
あ、やばい
目を逸らそうとしたら笑いかけられた
『やっと話せる!』
え?
『いっつもここにいて話せなかったから』
それじゃあ話すためだけに登ってきたのか
それも何日もかけて
ははっ、ばっかみたい!そのためだけに登るなんて
「きみ、かわってるね」
『それじゃあお揃いだ!』
この日見た景色はいつもよりも良く見えた
【ジャングルジム】
声が聞こえる、大体の人にとっては当たり前のことだろう
けれどあの子にとってはそうじゃなかった
生まれた時から音のない世界で生きてきた
それを知ってからは手話を拙いながらもしたり、文通をして意思疎通をした
そもそもあの子と知り合ったのは病室だった
手術をする必要があり、二週間の間だけ泊まることになったんだ
最初は隣に誰がいるのかわからなかった
でも、三日目にあの子が手紙をくれた
それからしばらくは文通をして仲良くなった
ある日あの子と話したいと思い、話しかけた
けれどそれに言葉や反応は返ってこなかった
その時は眠っているのかとも思ったけど布の差擦れる音が聞こえたから起きているとわかった
無視されているのかとも思ったときにあの子がカーテンを開けたんだ
そのときに初めて気づいた、みたいな顔をしたから聞いてみたんだ
耳が悪いのかって
そしたらあの子は紙とペンを持ってそこに
『生まれた時から何も聞こえない』
ってそう書いたんだ
その日からは文通だけじゃなくて、手話を少しずつ教えてもらったり自分で調べたりした
手術は怖かったけどあの子が応援してくれたから無事に終われた
あの子と一緒にいるのは楽しかった
退院してからも仲良くしたいってそう思った
それを伝えたらあの子は曖昧に笑って
『そうだね』
って
でも、退院する二日前に、あの子は…亡くなった
夜中いきなりピーという音が聞こえてなんだろうって思っていたら看護師さんが来て…あの子は運ばれて行った
それから帰ってくることは、なかった
信じたくなくて、悲しくて、寂しくて、布団の中で泣いたんだ
そしたら看護師さんの話し声が聞こえたんだ
あの子は珍しい血液型で輸血ができないから痛みを和らげることくらいしか出来なかったんだって
親はあの子を病院に入れるだけ入れて一回も会いにこなかったって
ああ、だからあの子は曖昧に笑ったんだ
きっと退院できないって、わかっていたから
なのに呑気に当たり前のように退院したらって…そこまで考えたらもう、ダメだった
何も聞きたくない、何も考えたくない
そう思ったとき、
『泣かないで、笑って』
って聞こえた気がしたんだ
なんでかわからないけどこの声はあの子だってそう思った
…あの子は笑顔が好きだったなってそう思ったら涙が止まったんだ
せめても笑っていようって無理矢理にでもって
あの子の声は、とても綺麗だった
【声が聞こえる】
君が病気で余命宣告までされてるんだって聞いたとき
正直、生きた心地がしなかった
病気なんて嘘で、余命宣告もされてないんだってそう、言って欲しかった
でも、君はなんてことないように笑って言ったんだ
本当なんだって、嘘なんかじゃ…ないんだって
どうして君が…って目の前が真っ暗になったよ
本来そうなるのは君のはずなのに、いやそう思いたいだけなのかもしれないけど
君はいつも言っていたもんね
死ねるのならそのまま死にたいって
だからこのまま死なせてあげるべきなのかもしれなかった
まぁすぐに諦めるなんて、無理だったんだけど
君の死が近づいてくる、こわくてこわくて仕方がなかった
そしたら君は言ったんだ
そんなに顔しないでよ、生きててあげるからって
それでも簡単には信じられなかった
時間なんて進まないで欲しいって止まって欲しいって思ってもいたんだ
だからさ、君が余命宣告された次の日にも元気に生きてるのをみて泣けてしまったんだ
それで…って、
はぁ、ねぇ聞いてる?
君の話だよ、君の
まぁ、いいけどね
…今日も、生きててくれてありがとう
置いて逝かないでくれて、ありがとう
君がいるのなら時間なんて、止まらなくていい
【時間よ止まれ】
夜、といえば覚えてる?
あの日のこと
君に呼び出されるとは思ってなかったから驚いたんだ
それと同時に焦りもしたよ
危ない目にでもあったんじゃないかって
その上レストランに来いってあったから
これは、別れ話でも切り出されるのかなって不安だったんだ
なのにまさか、君からプロポーズされるなんてね
おもいもしなかったよ
先にプロポーズしようと思ってたのにって
少し、悔しかったなぁ
でも、それ以上に嬉しかった
その後は一緒に歩いて帰ったよね
あの日見た景色は今でもよく思い出せるんだ
最期まで一緒にいようって…
なのに、君は…一人で逝ってしまった
…どうせなら連れて逝って欲しかったよ
君と一緒ならどこへだっていけたから
【夜景】
花を植えよう
そう思ったのは寂しがり屋な君が深い眠りについた時
そういえば、君は花が好きだったなって…そう思ったんだ
花の中でも君はパンジーが好きだったよね
だから、色とりどりのパンジーを植えたんだ
でも、それだけじゃ寂しい気がして
紫苑も植えてみたんだ
どうだろう
これで少しは寂しくなくなったかな
次会った時に感想を教えてほしいな
君に会うのはまだまだ先のことだろうけど
大丈夫
君は一人じゃないよ
それじゃあ、また来るね
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パンジー、ひとりにしないで
紫苑、あなたを忘れない
【花畑】