消えない焔
彼の声は、今も耳の奥で響いている。
最後に聞いたあの声を…やっと思い出せた。
「忘れないで、俺は君を永遠に愛してる。どこにいても、何年経っても」
その言葉だけで、心が熱くなり生き返る。
でも、苦しくて、愛しくて、涙が溢れる。
「忘れないでって言いたいのは私もよ。どうしようもないほどに愛していたのに、何で忘れていたんだろう…」
だが、彼にはもう逢えない。
もし私があの異世界に戻れたとしても
彼を知る前の私はいない。
愛した人が「現実(ここ)にいない」ということが、
これほど痛いとは思わなかった。
涙を引っ込めたいのに心は自分を裏切り
涙が止められない。
こんなの誰にも話せない。
きっと誰にも分かってもらえない。
「真実の愛」は手のひらからすり抜けていったのに、
心身だけがまだあの人を求めている。
恋心は、まだ燻っている。
人を愛する心も幸せも何もかも
全て向こうに置いてきてしまった。
終わらない問い
海は陸より大きいらしい
ならば、彼と私の愛も
狭い陸よりも無限の海の中でなら
許されるのかな
そんな日はくるのかな
愛する、それ故に
本当の俺は、君が思うよりも酷い存在なんだ。
だから、俺は君の未来に寄り添うべき奴ではないんだ。
俺のことは忘れてくれ、君には幸せに生きてほしい
愛してる、だからさようなら
誰か
乙女ゲームの世界に転生したら、誰かと恋に落ちるものだと思っていた。運命が廻り始めると思っていた。
でも、私はヒロインではなかった。
幼馴染である彼も、トリックスターと呼ばれる彼もここにいない誰かを探しているようだった。
違和感があったのが、正規ヒロインがいないのだ。
攻略対象たちに一切絡まずサブキャラクターの少女と駆け落ちしてしまったとのこと。
「どうするのこれ」
攻略対象もヒロインも役割を失った乙女ゲームは、
一体どこへ向かうのだろうか。
時計の針が重なって
時計の針が重なり、あの子の誕生日が来た。
一緒にいた時はごちそうを囲んで笑い合ったわね。
貴方はもう思い出だけど、今年も聴いてくれるかしら。
「お誕生日、おめでとう」
もう二度と祝えないあなたへのハッピーバースデーを毎年毎年、何百年前から空に伝え続けている。
孤独の魔女ソリトゥーディニスは、今年も届くことのない祝福を時計の針が重なるたびに囁くのだった。
彼女の声に応えるように、何処で星が瞬いた。