眠り子

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さあ行こう

どこからともなく怪しいパイプオルガンの音がする。
「初めまして、気の毒な人間ちゃん」
振り向くと1人の女性がいた。
夜空を溶かした波打つ濃紺の髪、片目と片頬を覆う仮面、これまた夜空を溶かしたようなローブ、白いドレスを着ていてこの世の者とは思えない美しさだった。

これは彼の幻覚だれうか?
ふと彼女の後ろを見ると数えきれない老若男女がいた。
みんな彼女と同じ仮面をしていた。
ある者は、偽りの夢に溺れた少女。 
ある者は、欲に溺れた少年。
ある者は、支配欲に狂った男。
ある者は、家族の幻想にうつつを抜かす女。
ある者は、誰にも認められず苦しむ者。
心にやみを抱えた人間は、誰も彼も孤独の魔女ソリトゥーディニスに囚われるのだ。

「さあ行こう、私たちの終わらない楽園へ!」
「ソリトゥーディニス様の仰せのままに…ソリトゥーディニス様の仰せのままに…」
差し伸べらた手は,苦しくて温かくて恐ろしかった。
まるでようやく母親に手を繋いでもらえた子供のような気持ちだった。
屋上に佇む彼は、魔女の手を取り楽園へと旅立った。

孤独の魔女ソリトゥーディニスは、今も現代社会の何処かを彷徨っているだろう。
次は,あなたの後ろに現れるかもしれない。

6/6/2025, 10:53:24 AM